死んでくれる?
人からこう言われるってのは光栄なんですかね?
「死んでくれる?」
「無理」
俺はそう答えた。
いや、だって。
なんで俺が死ななきゃいけないんだ?
――その女は年上のくせに、道ばたで歩いている俺に突然、そんなわけのわからんことを言ったのだった。キラリと光る、包丁を突きつけて。
それはそれは歌うように言いやがった。
「だって、寂しいじゃない」
それは、一緒に死ねってことですか。
「あら、違うわよ」
だって、一人じゃ足りないもの。
さわやかに言いやがった。いやいや、意味わかんねぇよ。
「みんな、一人だと寂しいじゃない」
みんなかどうかは知らんよ。そんなこと聞いて回ったことは今のところないしな。
「でもね、私はいや。一人なんて、いや」
「……人の話、聞いちゃいねぇ」
「でも、人間って一人で死んじゃうでしょ」
「あー、まぁ、普通は……そうだろうな」
「みんなで一緒に死んだ方が、にぎやかでいいじゃない。元気なうちにしか、そんなこと出来ないでしょ。だから、ね? みんなで死んでくれる?」
……思ったより、きっつい理屈だった。まだ、心中相手探すならわかるんだが、どうやら見かけた人間を殺すだけ殺した挙げ句、自殺する気らしかった。
無理心中っていうか、自爆テロだな。つか、自殺テロだな。
「それも、違うの」
「なにが」
「私が死ぬまで、道連れを作るつもりなの。……旅の道連れ」
要するに自分から死ぬ気はないそうだった。
もう、常人の理屈からかなり離れたところいるらしい。推定、2万キロだろうか。大気圏外だ。地球外だ。
「だから、ね。死んでくれる?」
ね、と言われても。
「んー、その話の前にとりあえずうちに帰れや」
俺はその手を引っ張る。
「……姉ちゃん」
わりと、いつものことだけどさ。いい子にしてくれよ、そのうち付き合ってやるからよ。
「……わかった」
嬉しそうに、へらへらと、姉は、女は笑うのだった。
私、一人じゃないもんね? と。
俺はいつか、別の誰かがこの手を引っ張る日が来るのか。少し、複雑な気分で考えていた。
別の誰かが手を引っ張る日、……そんな奴いるか?って話?