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一枚奇譚  作者: 裃 左右
13/15

今だけ、冷たい素顔で

死んでるって何ですかね?

脳死? 心臓死? そうじゃなかったら生きてるんですかね?

 眠ったまま死ねるのは幸いだろうか。

 僕は妹を、一枚のガラスを隔てて見下ろしながら……考える。

 それとも、もう目覚めることがないのなら、その意識が戻ることがないのだとしたら、それは既に死んでいるのと同じなんだろうか。

 僕にはなにもできない。手を差し伸べることも出来ず、声を掛けても届かず、何も出来ないと言う無力さをかみ締める以外できることはない。ほかにはせいぜい、こんなくだらないことを考えることくらいだ。

 自分の妹を材料にして、生きていることの大切さや、自由であることの尊さを知るかのような、そんな下種のするような真似を僕はしている。

(泣き叫び、悲しんで見せればいいって言うんだろうか)

 妹はゆっくりと死んでいく。すこしづつ、変化のないように見えて彼女の脳は食いつぶされていくかのように、消化されていくかのように、さいごには死んでいく。

 ――あと1年をかけて、ゆっくりと。

 僕はその間、1年もの間、ずっと泣くことはない。

 僕は冷たいのだろう。だけど、父や母を見ていると、そんなことは自分には許されないような気がしてならない。

 僕は……僕だけは……何事もないように、当たり前の日常を過ごすように生きていかないといけない。そんな気がしてならない。

(なんだって言うんだろうね、これは)

 つらくない、はずはない。悲しくない、はずもない。

 それでも、笑顔で生き生きと楽しそうにしようとする自分がいる。明るく元気に過ごそうとする自分がいる。

 まるで自分が自分じゃない、そんな気分だ。人形にでもなって、誰かに操られているようなそんな気分だ。

 もしも、自分の意思を感情を自分の思うままに表現できることが『生きている』とするなら、僕も妹と同じように死んでいるのだろうか。

 死んだまま眠っているのは幸いだろうか。

 起きたまま死んでいるのは不幸だろうか。

 僕はこれから、なにも未だ知らずにいる恋人に会うまでの僅かな時間に。

 必死にその答えを探そうとしている。

 僕は思う、たとえ妹がこのまま死んだとしても。

 僕はきっと、それを誰にも気づかせずに生きていく。何事も起きていないかのように振る舞い、誰にもそれが偽りであることを気づかせることなく。

 知っているはずの家族の前でさえ、ありもしない義務のためにそうし続ける。

 だから、もうすこしだけ。せめて妹と二人きりでいるときくらいは。

 僕は今、きっと能面のような表情をしているのだろう。

 同じように死んでいるとしても、同じように人形のようでも、眠っているかのように安らかな表情をしている妹とは違って。

 僕は冷たい、表情をしているのだろう。

 きっと僕は、この顔を誰にも見せることはない。

悲しいことが起きて一番悲しいのは、明るく笑顔でいることなんじゃないのかな。

平気そうな顔をしていることなんじゃないのかな、なんて思います。

でも、たぶん誰にも理解されないんだろうな。彼は。

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