呪卦
なぜ、人は怖いと思うのか。なぜ、怖いのに近づくのか。って話。
お前は理解できないのかもしれないけどさ。
オレは、その、怖いものみたさ、って理解できなくもないな。
怖くないわけじゃなくな?やっぱり怖くてもさ、見たくなるんだよ。
いや、むしろ怖いからこそ、かな。知りたくなるのは。
怖いと、なおさら人間って興味が出てくるもんなんだよ。きっと。
怖いものが怖くなくなる一番の方法は、その正体を知ることだから、さ?
あー、もし幽霊とか見ちゃっても、それが単なる影だとか、トリックだとか、友達のいたずらだったとか、それを知ってしまえばもうなにも怖がることはないだろ。
だから、ある意味、そういうのって人間の本能なんじゃないのかな。
怖いものを克服するための、人間の本能……つーか、さ。怖い物好きは。
え? いや、べつにさ。納得しろ、って言うわけでもないけど。
んー……とりあえず、付き合ってみるぐらいいいんじゃない。肝試しぐらいさ。
まぁ、話はそれるけどさ。オレ、彼女出来たじゃん。
いや、自慢じゃないって。
……彼女? いや、可愛いけど、さ。
あ、ノロケでもなくて。
え? ……なにが、可愛いけど、なのかって?
案外、お前、話ちゃんと聴いてるよな。
いや、褒めてるんだって。そういうの気付かないヤツ、結構いるしさ。
うん、確かに可愛いんだ。けど、彼女がさ。
そういうの見える人らしいんだよ。
……引いたってわけじゃなくてさ。そういうの知ってから、付き合ったし。
正直、オレ、彼女のこと怖いんだよ、そういうところだけじゃなくて。
アイツ、オレのこと好きだって言うんだ。
いや、彼女がじゃなくて、いや、彼女もそうなんだけど!
……幽霊に好かれてるんだってさ。
ずっとオレの背中にべったりとくっついているんだって。髪の長い女がさ。
足にも、なんか、髪の毛が巻きついてるらしくて。
全身、その女の髪の毛だらけ、頭から足先まで絡み付いてる……みたいな。
……ん、ずっと居るらしい。
オレの背中に。
ああ、今も。
信じてなくても怖いだろ。気味悪いよな?
でも、彼女、だから、オレのこと見てたいんだって。
どうなるか、わかんないから。怖いから。
そんなとり憑かれ方した人間なんて見たことないから、オレが最期どんなふうになるのか、その結末が知りたいんだってさ。
実際、幽霊よりも、そういう人間の方が怖くねぇか?
え? ……ああ、そうだよ。やっぱり、よく話聴いてるよな、お前。
そう言われたから、付き合いたいって思ったんだよ、オレ。
怖いのは人間じゃなくて、おまえらだ。って話?