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プロローグ

 その日は雷鳴が轟く夜だった。

 上品なレースカーテンを超えて差し込んでくる稲光と、それを追う轟音に身をすくめ、布団を頭からかぶった私は、まだ五歳だ。本来ならば、こういうときは心優しい両親が心配して来てくれるものだろうが、あいにく私にはそんな両親は存在していない。彼らは今日も今日とて愛人との逢瀬に忙しいのだ、お互いに。なんて似たもの夫婦なんだ。ある意味ではお似合いだと、嫌味ではなく本気でそう思っている。

 私はすでに、彼らには何も期待していない。お金だけどうにかしてくれるのなら、もはや居ても居なくてもどちらでも構わない。ただ他所で子供を作るのだけは勘弁だ。面倒事は困る。

 そして今夜は残念なことに、この広い屋敷の中には誰もいない。

 厳密にいえば家令のセバスはいるのだが、彼はあまりにも高齢で最近はすっかり耳が遠くなり、こんな轟音ですら聞こえないのだ。そのうえ、一度寝てしまうと朝まで目を覚ますことがないタイプの人間で、おそらくこの時間は完全に夢の中だ。別にいいのだけど、家令としてはどうなのか。いや、別に家令の仕事に子守りなんて入っていないのはわかっている。わかっているけど、今この家に一人っきりの五歳の子どものことを微塵も気にかけないその神経がすごい。

 でもセバスには期待をしている。というより、我が家の未来はセバスが握っていると言っても過言ではない。愛人にうつつを抜かしている愚鈍な両親に任せていると、この家は半年も持たないだろう。これまで何とかなっているのはひとえにセバスのおかげだ。しかしあまりにも高齢なので、早めに後継を育てていてほしかったのが正直な気持ちだ。今からでは間に合わない気がする。

 もしかすると、没落はすぐそこまで迫っているのかもしれない。

 とはいえ、我が家は屋敷こそ広いけれど領地を持っているわけではない。雇っている使用人には迷惑をかけるが、領地や領民の心配をしなくて良いのは不幸中の幸いだ。(まだ没落していない)

 そんな我が家の使用人たちは住み込みではなく、通いで働いてもらっていた。あいにく住み込みの部屋を与えられるほどは広くないのだ。でも今日は近年まれにみる悪天候だったため、早めに帰宅してもらっている。それゆえに私は一人だった。

 こういう場合、家令のセバスとメイド長のメアリーが残るのが我が家のルールだ。しかしメアリーの息子が大の雷嫌いで、母親であるメアリーがいないと家で大暴れをするらしく彼女の夫から救援要請があり、メアリーは仕方なく帰っていった。

 私の記憶が確かなら、メアリーの息子、確か今年で十六歳ではなかっただろうか。しかもどこかの由緒正しいお嬢様と婚約をしているんじゃなかっただろうか。大丈夫か、その息子。私が心配することではないが。


「役に立たたない……誰も役に立たない……こんなに可愛い私が怖がっているというのに……!!」

「おおよそ怖がっている態度じゃねェよ」

「はあ? よく見なさいよ! この体の震えを!!」

「どっちかと言えば怒りで震えてんじゃねェの」

「失礼な!」


 私はガバッと布団から起き上がると、目の前でふよふよと浮いている男に殴りかかった。しかし振り上げたこぶしはスカッという音とともに男の体をすり抜けた。


「無駄無駄。お前、俺の体が透けてンの忘れてるだろォ?」

「そうだった。アンタ、幽霊だったわね」

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