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騒がしい同居人  作者: 小桃 綾


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8/18

会話

 朝、閉じた瞼越しに差し込む朝日の明るさと雀の鳴き声で目が覚めた。

 ここに引っ越してもうすぐ半年。晴れの日は必ず幽霊がカーテンを開ける。最初は目覚まし時計の代わりになると思っていたけど、春が過ぎた頃からその時間は早くなり、今朝は……4時半。早過ぎない? まだ眠いんだけど。


 眠い目を擦りながら窓の方を見ると、いつものように幽霊が窓際に足を揃えて座っている。光を受けて淡く透けながら、穏やかな顔で静かにベランダの雀を見ている。

 

 何故かこの部屋のベランダには晴れた日の朝に雀が来る。餌付けしていないのに必ず来る。逆に雨の日は雀が来なくて、その日は幽霊がカーテンを開けない。


 雀が飛び立つと幽霊も姿を消して、そこから私の一日が始まる。


 明日は休日。今日頑張ればゆっくり休めるし、今夜はやってみたいことがある。頑張って仕事を終わらせよう。


  ▼


 仕事から帰宅、いよいよ意思疎通の最終段階に入る。その方法は──

 パソコンを使って文字で会話すること。


 お供え用のテーブルの手前に普段私が使っているテーブルを近づけて、ノートパソコンを置いて起動する。

 以前は夜中にキーボードを打ち込んでいた。今はリアルタイムでおはじきを動かしてくれるし、あの頃よりは仲良くなってると思う。いきなり怖い言葉を言われることはないはず、多分……。

 日本語入力をカナ入力に切り替えて一呼吸する。


 この仕組みで最初にする質問。ずっと気になっていたことを聞いてみた。


「貴女の名前を教えて」


 キーボードは押されず、おはじきも動かない。長い沈黙が続いて諦めかけた頃、キーボードがゆっくり押されて、パソコンのメモ画面に文字が表示された。


  わからない


 えっ……分からない? 生前の名前はあるだろうし、戒名もあるだろうけど……思い出せないってこと?


「……そっか。じゃあ……安直だけど、幽霊の幽子さんって、呼んでもいい?」


 キーボードは押されなかったが、置いてあるおはじきが『はい』に動いた。


 本当の名前じゃないだろうけど呼べるようになった。名前を呼ぶのはそれだけで関係を深められるはずだ。


「幽子さんって、朝よく雀見てるよね。雀見るの、好き?」


  たいすき


 ん……? 鯛好き? 雀じゃなくて? あ、大好きか。そう言えば前、濁点打ってなかったっけ。


「濁点って打てないの?」


  とつちかわからない


 これは……『どっちか分からない』か。濁点なんて一つしかないのになんで……あ、もしかしてダブルクォーテーションと迷ったの? これだよ、このキーだよ。


  よんてくれてるからおほえない


「……それ、ズルくない? まぁ頑張って読むけど……。ほら、『まんしゆうほしい』って言われたら『満州を武力制圧したいの?』って思うかもしれないよ」


  まんしゆうはおまんしゆうつていうからたいしようふ


 うわ、長文になると難易度上がるな。えっと……うん、たしかにこじつけっぽい言い方しちゃったけど、覚えてくれたら私が読みやすいんだよ?


 キーボードは押されなかった。代わりにおはじきが『いいえ』に動く。


「ダメ? 覚えない?」


 言いながらおはじきを戻そうとしたら……おはじきが動かなかった。強く押さえつけられているみたいで1ミリも動かない。まるで固い意志を表しているみたい。そんなに面倒臭いの?


「しょうがないなぁ、いいよ」


 言った瞬間、おはじきが動いて中央に戻ってくれた。

 ずっとやってきたことだけど、おはじき一つでここまで意思表示のバリエーションがあることに笑ってしまった。


「幽子さん、疲れたら無理して答えなくてもいいからね」


 おはじきが『はい』に動いた。


 生い立ちとか深い話を聞くのは早すぎる。何度も名前を呼んで、今までおはじきで確認してきた好みの答え合わせをして。いつの間にか姿を現した幽子さんが私の隣に座っていた。肩が触れてるけど触れてない近さで。


 私の話し声とたまに聞こえるキーボードの音の中、休前日の夜は静かに更けていった。

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― 新着の感想 ―
 満州欲しいはないでしょう。  せめて満州恋しいとか?……ってこれだと不自然か。元が饅頭欲しいですし。(笑)
タイトルと反して物静かな同居人に……………。 あれ? 幽子さんから見ると騒がしい同居人は「私」か!?
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