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騒がしい同居人  作者: 小桃 綾


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理不尽な言いがかり

 職場に泊まった翌日。

 出来るだけ職場の人に近づかないようにして仕事をしました。


 今は涼しい季節、念のためにウェットシートで身体を拭いたから汗臭くないと思うけど、やっぱり他の人に近づきたくない気持ちが強かった。


 お昼休みが終わって午後の業務が始まった瞬間、職場の電話が鳴った。昨日荷物を送った客先からのクレームの電話でした。なんでも、ここから出荷した荷物の商品が緩衝材ごと刃物で切られていたとのこと。


「えっと……恐れ入りますが、それは箱を開けるときに切られたのでは?」


「こっちが商品切るわけないだろ! いいから代品すぐ寄越せ!」


 怒鳴り声の後に聞こえたガチャ切りの音に堪らず耳から受話器を離す。『開梱時、刃の出し過ぎ注意』のシールを目立つように貼っていてもこんなクレームが来る。理不尽すぎる。


 物流経験者ならほとんどの人が知ってるだろう『開梱時にカッターの刃を出し過ぎて中身を傷つける可能性』。それを知ってるから注意表示のシールを貼るだけじゃなくて箱の中の一番上と底に段ボール板を入れて梱包してるのに。職場のみんなで知恵を出した対策なのにそれも貫通して切るなんて。切った人も自分がやらかしたって分かってるだろうにそれをこっちのせいにするなんてありえない。お風呂入りたい。正直に言ってくれれば『やっちゃったかぁ』って思いながらも着払いで引き取って再販可能か判断してあげようと思うのになんでこっちが怒られなきゃいけないの。私が家賃払ってるのになんで家で寝られないの? 家賃も住民税も払ってないでしょっ!幽霊を見たときは金縛りになるっていうけど普通に動けるし暫く見てればどうせ消えるし。今日は帰る! 私の家だもん!


 疲れて、腹が立って、怖いとか考える余裕もなくて。定時になると同時に帰り支度を始めた。



 イライラが治まらないままアパートに着いて躊躇なく玄関のドアを開ける。部屋に入っていつも幽霊が立つ場所を見ずに持っていたカバンをベッドに放り投げる。お風呂のお湯張りスイッチを押してから晩ご飯の下ごしらえを始める。


 大好きなお風呂に入って温まる。クレームの電話を思い出して落ち着かない。

 お風呂上がりにビールを呑んで、晩ご飯を食べながら大好きなネット動画を見る。内容が全然頭に入らない。

 眠る時間になってパソコンの電源を落としてベッドに横たわる。イライラは全然治まらない。


 部屋の電気を消して目を瞑ってもなかなか寝付けなかった。気が付くとまたいつものように深夜に目が覚めていて、ようやく眠れたのに起こされた気になる。身体を横向きにすると何も言わず部屋の隅に立つ幽霊と目が合って。


 気持ちが、爆発しました。


「そんな大きい胸してるのに悲しい顔しないでよこっちがうらめしやだってば! 胸が重くて肩凝るとか走ると痛いとか足元見えなくて躓くとか、ブラウスのボタンが留めにくいとかサイズの合う下着売ってる場所が少ないとかあったとしても可愛くないとか、ただの脂肪の塊だよとか大きくても良いことないよとかアタシも言ってみたいよ!」


 身体を起こして思ってたことをそのままぶつけました。幽霊は一瞬驚いた表情になって、そのあと()を見て──

 泣きそうな顔で静かに消えました。


 は?

 もしかして……憐れまれた!?


 …………幽霊って大っ嫌い!

 うわーーーん。



 翌朝、ふと気付きました。

 "うらめしや〜"って恨めしいであって、羨ましいではないことに。全然恨んでないのに逆恨みみたいな怒鳴り方して、悪いこと言っちゃったな……。

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― 新着の感想 ―
主人公の怒りが、リアルです。 どこにでも、こういうクレーマーっていますよね。 ちなみに、恨むは、うら(心)+で見る、羨むは、うら(心)+が病むが語源とか。
 え?  騒がしい同居人というのはもしかして、幽霊にとってのこの女の人のこと………?  なんか続きが楽しみになってきました。
 恨みも羡みも嫉妬という面では同じ。  どうにもならない格差への不満と渇望ですから。  そしてそれらの感情は主観的であるため客観的に見れば多くが理不尽。  物事の本質をよく見てるなぁ。(苦笑)
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