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騒がしい同居人  作者: 小桃 綾


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11/18

幽霊が嫌がるもの

お食事中の方ごめんなさい。

 この部屋に住んでもうすぐ六年。帰宅して郵便受けを見ると契約更新を報せる手紙が入っていた。


 また一ヶ月分多く払わないといけない。一般常識だけどなんでこんなシステムがあるんだろう。

 貯金残高を思い出して支払いの算段をつける。家賃の安い部屋で本当に良かったと思う。幽子さんありがとう。

 食事も入浴も終わり、いつものようにお供え物を置いて電気を消して、眠りについた。



 ユサユサ……


 なんだか肩の辺りを押されて揺すられている感覚がある。私が寝つきやすいように揺すってあやしてくれてるのかな。そんな、歳じゃないのに…でも……ありがとう…ね………


 ボフッ!


 耳元に何かが落ちた感覚にビックリして飛び起きた。心臓がバクバクいってる。


「なに!? 何かあったの!?」


 横を見るとベッドのすぐ傍に幽子さんが泣きそうな顔で膝立ちしていて、私と目が合うと部屋の隅を指差した。


 何があったのか分からないけど取り敢えず電気を付けて、幽子さんが指差していた方を見る。そして、凍りついた。


 壁に、小さくて、黒光りするものが、見えた。


 思考が止まる。声も出ない。見たくない。目を逸らしたい。でも視界から外したら……終わりだ。

 この部屋で六年過ごしてきて初めて出た。近所に飲食店はないのに。


「ゆっ、幽子さん何とかして! 分からないけど霊的なすごいヤツでドンって!」


 幽子さんを見ると涙目になりながら顔を横にブンブン振っている。

 ……なんてこった。私が退治しなきゃいけないのか。


 最初に見つけた場所から動かないそれを見ながら殺虫剤の置き場所を思い出そうとして……愕然とした。


 殺虫剤を持った記憶がない。引っ越しの段ボールに入ったまま押し入れの中じゃん! ばか! 私のばか!

 殺虫剤を探してる間に絶対居なくなる。しょうがない、台所洗剤でやろう。


 そ〜っとベッドから降りてキッチンに行こうとすると、不意にパジャマの袖を引っ張られた。

 振り返るといつの間にかベッドに乗って座っている幽子さんが袖を掴んでいた。まるで『置いていかないで!』と言わんばかりの表情で。

 かわいいなちくしょう!

 こんな顔でベッドに引き留められたらどんな男もイチコロだろうな!


「大丈夫だよ。キッチンに行ってすぐ戻ってくるから」


 掴んでいた袖を離してくれたので静かにキッチンへ移動、洗剤を持って戻ってみると、ヤツは……姿を消していた。


「どこ! どこ行ったの!?」


 さっきまでいた辺りには見当たらない。恐怖に慄きながら探していると肩を叩かれた気がして、振り向くと幽子さんがテレビ台の方を指差していた。私が部屋に戻ってきたときと同じく、ベッドに座ったままで。


 そこから私の肩叩いたの? こんなに離れてても触れるなら簡単に退治できるんじゃないの? まぁ、あの雰囲気だとあてにならないか。


 静かにテレビ台に近づいて裏を覗き込むと、居た。

 ヤツを刺激しないように気をつけながら、周りを丸で囲むように台所洗剤を垂らす。カサカサと動き始めて、ヤツの体に洗剤が付着した。

 よし、取り敢えず一安心。あとは動かなくなるまで待とう。


「幽子さん見失わないで。ちゃんと退治できるからね」


 幽子さんがブンブンと首を縦に振っている。見てもらってる間に押し入れを開けて、殺虫剤とゴミ拾い用のトングを探し出した。


 暫くして、部屋の真ん中辺りでヤツが動きを止めた。オーバーキルだと思うけど念のために殺虫剤もかけて、見えないようにキッチンペーパーで覆ってからトングで掴んでレジ袋に放り込んだ。もちろんレジ袋は二重にする。


 ……やっと終わった。でも、まだ後片付けが残ってる。

 テレビ台の裏からヤツが移動した経路に残る洗剤の跡。それをキッチンペーパーで拭き取っていく。


「終わったよ。お疲れ様」


 拭き終わったゴミを捨てながら幽子さんを見ると、キラキラした目で私を見ていた。まるで尊敬の眼差しみたい。……って、明日も仕事だから早く眠らないと。


 電気を消してベッドに横になる。


「でも怖いよね。一匹いたら百匹いると思えとか言うし……ん?」


 暗闇の中、青白く光る幽子さんがベッドに腰掛けて、私の手をぎゅっと握ったままキョロキョロしている。幽霊でも怖いものは怖いらしい。

 ……でも、怖がる幽子さんはちょっと可愛いかったな。


 来週はアパートの更新手続きで不動産屋に行く。面白い話のネタができたし、行ったら話そうっと。

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― 新着の感想 ―
まさかの弱点が発覚! 盛り塩とか経文じゃなく、生ゴミを置いておけば幽子さんは居なくなっていたのかも知れない(-ω-;)
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