5.『試し』が終わり……
ポロはニコニコと笑っていた。
一日に二回も『試し』が出来ることなどなかったし、目の前をあるく少女との『試し』はじいとの『試し』とは違い、新鮮味があってとてもワクワクした。
「なあ、さっきの魔法、どうやったんだ?」とポロが聞いた。
「さっきの? って、どれのこと?」
「あのでかい氷の塊を破壊したあと、それを操っただろ? 発動した後の魔法って、直接触れないと操れないのに、どうやったんだ?」
アリスとサンドラがきょとん、とポロの顔を見る。
「どうやったって、からかってるの?」とアリス。
「え? いや、からかってないが……」
「あなた、マーリン様の弟子なんでしょ? 魔法の段階操作なんて、騎士団に入るための必須条件よ? 基礎とまでは言わないけど、それを出来ないじゃなくて、知らないだなんて信じられないわ」
「つっても、知らないんだけど……。あと、俺は弟子じゃない」
そこで、何かに気が付いたようにサンドラがアリスに言った。
「お嬢様。魔法の段階操作が一般的になったのは三十年前です。そのころには、すでにマーリン様は王都を去られていました」
「……ってことは、マーリン様も段階操作を知らない?」
知らないなら、教えることも出来まい。その考えに至り、ポロが決して冗談を言ってるわけじゃないとアリスとサンドラは気付いた。
「でも待って。あなた、ファイアアローも連射してたわよね? 連射式が出来たのも、同じくらいの時期だったと思うけど。あれはどうやったの?」
「は? どうやったって、普通に何回も発動しただけだが……。あんたのは違うのか?」
その言葉に、アリスは絶句した。現代、魔法を連射するなら、連射式という方式を使うのが一般的だ。それを力づくで行ってしまうとは……。むしろ、そっちのほうが神業である。
「全く、規格外ね……」
「規格外? まあ、どうでもいいけど、なあ、その段階操作とか連射式っての教えてくれよ。えーっと。あ、そういや、あんたたち誰なんだっけ?」
新しいおもちゃを買ってもらった子供のような笑顔を浮かべるポロは、二人の名前よりも、使っていた魔法のほうが気になっていたようだ。
名前を使う段階になり、初めて名前をまだ聞いてなかったことを思い出したのだ。
「ああ、申し遅れました。わたくし、お嬢様お付きのメイドの、サンドラと申します」
「私は、魔法騎士団のアリス・フロストです。よろしく、ポロ」
そう言って手を差し出すアリス。
しかし、ポロの表情は一変して、硬い表情を浮かべていた。そこに先ほどまでの笑みはない。
「魔法、騎士団……。そうか。今は、そういう制服なのか」とポロはアリスの格好を見て呟く。
「? ええ。十五年前、大災厄後に、変更されたと聞いています」
「……そうか。よろしく」と、ポロはアリスの手を軽く握った。すると、さっさと前を歩き始めた。
様子が変わったのに、気付かない二人ではない。サンドラがアリスに耳打ちをした。
「魔法騎士団と、何かあったのでしょうか?」
「いえ、分かりません。しかし、気にしても仕方ありません。私たちの目的は、マーリン様にご助力いただくことですから」
これ以降、三人の間に会話はなかった。マーリンのもとに着いたのは、日暮れごろになった。