3.『試し』・1
森の中。
ポロはボロボロになり、倒れていた。
しかし、よく見れば、ボロボロなのは、服だけで、身体には大きな傷はなさそうだった。
仰向けになり、腕を組みながら空を見ていた。
「くっそー……。勝てねえー……。じいのやつ手札多すぎんだろ……。まさか、アイスランスとストーンショックからの連携もあるなんて……。考えること多すぎだ……」
マーリンとの『試し』を思い返して、ぶつぶつと呟いていた。それは負け惜しみではなく、本気で次勝つための作戦を立てていたのだ。
ポロにとっては、この瞬間もものすごく楽しかった。いつもなら、こうして考えてるだけで日が暮れて、帰るころには、星が輝いているのだが……。
がさり、と物音がした。
ポロは静かに身体を起こし、物音がしたほうに目をやった。
「初めまして」そう言いながら姿をあらわす一人の少女。「私はアリス・フロスト。あなたがマーリン様のお弟子さん?」
「いや、違うけど」と立ち上がりながらポロが言った。
「え? えっと、人違いかしら、サンドラ?」
アリスが後ろを振り返ると、もう一人、メイド姿の女性が姿を現した。
「どうでしょうか……? しかし、他に人の気配はありませんし」
「そ、そうよね。こほん。えっと、マーリン様とはお知り合い?」
「まあ、知り合いだな」
「どんな関係かしら?」
「うーん……。まあ、魔法を教えてくれるじいさんって感じかな?」
弟子じゃねえか。とアリスは心の中で叫んだ。
「ま、まあ、いいわ。あなたにお願いがあるのですけれどいいですか?」
「……なに?」
「わたしと一つ、魔法の手合わせをしていただけませんか?」
それを聞いたポロは、勢いよく立ち上がった。その表情はまぶしいほどの笑みで、瞳はらんらんと輝いている。
「手合わせって、『試し』のことか?」
「た、試し?」と聞き覚えのない言葉にアリスは首をかしげる。
「お互いに魔法を使いあって、相手に当てたほうが勝ち、だろ?」
それを聞いてアリスはほっとする。どうやら、本当に手合わせのことを試しと呼んでいるだけのようだ。
「ええ、そうです。開始のタイミングは任せます。サンドラ、離れてなさい」
言われて、サンドラは少し距離を置いた。
ポロはといえば、純粋無垢な笑顔を浮かべて、準備が出来るのを待っていた。
『試し』が好きだが、じいはたまにしかしてくれないし、それに、町の他の人は全く付き合ってくれない。
そんなたまにしかできない『試し』が、今日二回目で、しかも、じい以外の相手となれば、ワクワクしないわけなかった。
サンドラが十分離れると、アリスが言った。
「どうぞ。いつでも」
「じゃあ、さっそく」
ポロは指先をアリスに向けた。
「ドン!」