表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

2.アリスとサンドラ

 じいと呼ばれていた老人が、町に帰ると、一人の衛兵が迎えてくれた。

「マーリン様。お疲れ様です。グランドオーガは無事に?」

「おう。ポロが一撃でな」

「そうでしたか」と衛兵は辺りを見回した。「で、そのポロは?」

「ほっほっほ。わしに喧嘩を売ってきよったから返り討ちにしてやったわ」

「へえ。ポロでも、流石にまだマーリン様には勝てねえか」

 それにマーリンは何も答えず、横を通り過ぎようとした。

「ああ、待ってください。あなたにお客人が来ています」

「客?」

「ええ。王都から来たそうで、正式な書状も持っていましたので、町長の屋敷の応接室に通しましたが、お会いになられますか? 追い返してもいいですが」

「いや、書状を持っていたのならあったほうがよかろう。あとで何を言われるかわからんしの。他に、何かあるか?」

 衛兵は首を横に振った。

「いえ、ありません」

「うむ。では行くとするか」

 それからマーリンはゆっくりと、町長の屋敷に向かった。

 屋敷に入るとメイドが迎えてくれて、応接室に案内してくれた。

 そこで待っていたのは、二人の女性だった。

 一人は、メイド服を着ていたが、さっき案内してくれたメイドとはまた違ったメイド服だ。ツインテールに、優し気な顔だち。それから、なにより豊満な胸に、引き締まったウエストに目がいった。

 眼福じゃのお、とマーリンは心の中で鼻の下を伸ばす。

 もう一人は、王都の魔法騎士の制服を着ていた。金髪のショートカットと凛とした顔だちに、その制服はとても似合っていた。またスリムで無駄のない洗練された体つきをしていて、それは洗練された調度品のように、見るものに感嘆の息をつかせた。

 彼女はマーリンを見ると立ち上がり、最も丁寧なお辞儀をした。

「初めまして。魔法騎士団に所属しております。アリス・フロストと申します。あなたがマーリン様でございますか?」

「うむ。そうじゃよ。初めまして。フロスト家のご息女がこんなおいぼれになんの御用かな」

「そんなおいぼれなどと。かの大賢者はご健在でしょう? こうして目の前にして、衰えが全くないと分かります」

「世辞はよいよ。用だけ頼もう。老人の身体をいたわっておくれ」

 アリスはマーリンに一枚の紙を渡した。

「最近、各地で特殊個体の魔物が数多く確認されるようになりました。今はまだ、現地だけで対処できていますが、この調子で特殊個体が増えていくと、対応できない地域も出始めてきます。そうなる前に、まずは王都周辺だけでも特殊個体の対応を終わらせ、原因の解明を急ぐこととなりました。つきましては、マーリン様に、王都に出向いてもらい特殊個体討伐のお手伝いをしてもらえれば、と騎士団長より仰せつかってまいりました」

「ふむ。まあ、簡単に言えば、王都まで出て魔物を討伐しろ、とそういうことじゃな」

「はい」

 とアリスが頷くが、マーリンは考えることもしなかった。

「断る」

「な、なぜでしょうか?」

「わしはもう疲れた。ここで余生をゆっくり過ごしたいのじゃよ」

「な……。そんな身勝手な理由で。国の危機なのですよ?」

「しらん。それに、わしは若いころにやることはやったわい。それとも、なにか? わしを引きずってでも連れていくかな?」

 その瞬間、アリスは恐ろしいほどの殺気を肌で感じた。思わず、生唾を呑み込み、拳を強く握りしめた。

 横に立っていたメイドも、アリスの身を守るように彼女の前に手を出した。

 マーリンが笑うと同時に、殺気は消え失せた。

「ほっほっほ。冗談じゃ、冗談。お前らをどうこうするつもりはないよ」

 アリスは緊張が解けないままに聞いた。

「しかし、来てはくれないのですよね?」

「そうじゃのお……。では、一つ、条件を出そう」

「本当ですか? マーリン様が来てくださるなら、どんな条件でも」

「そうかそうか。では、今、魔鉄木の森にお前と同じ年頃の、わしの弟子がおるのじゃがな。そいつと腕試しをしてこい」

「で、弟子ですか?」

「うむ。お前が、わしの弟子よりも強ければ、一緒に王都にいってやろう。じゃが、もし、お前がわしの弟子より弱いなら、わしではなく弟子を王都に行かせる。どうじゃ?」

 ニヤリと笑うマーリンとは対照的に、アリスは真剣な顔つきになっていった。

「それは、本気でやってもいいのでしょうか?」

「うむ。もちろん」

「怪我をさせてしまうかもしれませんよ?」

「いい薬じゃ」

 その返事を聞いて、アリスは内心で笑った。きっと、このご老人は私の実力を勘違いしている。これでも、国一番の魔法学校を首席で卒業している。自慢するわけではないが、騎士団の中でも、かなり実力があるほうだ。

 相手を直接見てないから何とも言えないが、かの大賢者の弟子とはいえ、勝率は五分くらいはあるのではないだろうか?

 ならばやってやろう。

「そのお言葉、忘れないでくださいね」

「うむ。忘れんよ」

「行きましょう、サンドラ」

 アリスがメイド、サンドラに言った。

「いいのですか? お嬢様」

「仕方ありません。それとも、あなたはあの大賢者を、力尽くで動かせると思いますか?」

「いえ、それは……。ですが、それだとお嬢様のお立場が……」

 心配するサンドラを横に、アリスは安心させるために笑って見せた。

「大丈夫です。私の実力を証明すればいいだけですから」

「……分かりました。お嬢様」

 そうして、二人は出て行った。

 一人になった部屋で、マーリンは笑う。

「ほっほっほ。やはり、若者はあれくらい威勢が良くないとな。ポロの奴が良い影響を受けるといいんじゃがな」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ