1.ポロは『試し』たい
一人の少年と、一人の老人が森の中を歩いていた。少年は何かを探すようにきょろきょろとしている。老人のほうは、完全に少年に任せているのか、前しか見てない。
「じい、居た」
木々の奥に何かを見た少年が言った。少年の視界には、巨大な人型の魔物、オーガがいた。それも、グランドオーガと呼ばれる特殊個体だった。
こいつが最近、町の畑や家畜を荒らしていると報告があった。実際、今もグランドオーガの横には『牛』が転がっており、オーガの口元には赤い血が滴っていた。
「ふむ。見事なグランドオーガじゃな。普通のオーガと違い、魔法耐性が高い。ポロ、油断すると痛い目を――」
「ドン!」
老人が言い終わる前に、ポロと呼ばれた少年の指先から、赤い矢が放たれた。
『ファイアアロー』と呼ばれる炎の魔法だった。それは、グランドオーガの頭を貫くと、大穴を開けて、空の彼方に消えていった。
ずずん、と倒れた巨体を見て、老人はあきれ果てる。
「関係ない、か。しかしな、ポロよ。人の話は最後まで聞かんと良くないぞ」
「へいへい。つったって、グランドオーガを相手にするの三回目だし、前回も前々回もじいに同じ話聞かされてんだけど?」
そうだったかの? と、じいは首を傾げ咳払いをした。
「復習も大事じゃ」
「ぜってえ、言い訳じゃん」
木々をかき分け、二人は死体のもとに向かい、処理を済ませる。
「さて、これで仕事終わりっと」
「うむ。そうじゃな。では、帰るか」
くるり、とじいが背を向けたとき、ポロがじいに指を向けた。それは、グランドオーガに『ファイアアロー』をはなった時と同じ形をしていた。
「ドン!」
炎の矢はまっすぐにじいに向かって飛び、その身体を貫くかと思えた。しかし、じいを守るように、水が噴き出した思うと、それは戦士の形になり、炎の矢を握りつぶした。
「殺す気か!?」と、振り返りながらじいが言う。
「いやいや、死なないっしょ、これくらいで。それより、忘れてたでしょ。仕事終わったら、『試し』してくれるって言ったじゃん」
じいはため息をついた。
「忘れとらんわい。はぁ、全く。そんなに試しが好きか?」
「当たり前。これ以上に面白いことないでしょ」
「仕事はどうじゃ? 魔法を好きにぶっぱなせるほうがすっきりするじゃろうに」
「んー……。まあ、それはそれですっきりはするけど、面白いって感じじゃねえなあ」
「そうか……。まあよいわ。それよりも……」
バチバチと雷の球が老人の周りにいくつも浮かぶ。それを見て、ポロはニヤリと笑い臨戦態勢に入る。
「背後から老人を襲った小僧に、少々お灸をすえてやらんとな」
「……上等!」
森の中に轟音が響いた。