1 落ちこぼれ召喚者ミスをする
「おい! みんな!! 降伏なんがしねぞ!」
中年のおっちゃんの叫びが、スタートピストルの代わり、引き金の役割を果たした。市民同盟たちはそれぞれ、立ちはだかる魔王軍に思い思いの言葉をぶつけた。
やれ、帰れェ。やれ、居座るなァ。やっちまえィ、と、こんなふうに。
それに対して魔王軍の飛行船は、爆音をとどろかせながら、まだエサウルス国の雲一つない青空を飛びながら、ほかの市と同じように、いま市民たちが掲げているあの「帰れ、魔王軍」の赤旗が、縦にのびて、白い「負けました、魔王軍」に代わることを待ち望んで、まだ空の上にいた。
「ヤーラ市はほかの弱え町と違って、同盟さ組んだ。今や同盟さ強いだ。おらたちは絶対、絶対に負けねえ!」
ドンドンゴンゴン。
空の上に向かって大砲が撃ち落され、無残にも魔王軍のヘリの風圧でたたき落とされた。爆風波は強かった。さすがmに魔王軍を倒そうと勇んで設計された大砲だった。一発ごとに最低でも八人は命を落とした。
年老いた召喚者エサレイは魔法の杖を一心不乱にぶん回しながら、たとえばオミーロの呪文を、たとえばぺルキーデスの秘薬を混ぜたアッカサ森の水を、次々と大地に振りまいていた。
「くそ、どうにもならない――」
そう悟った市民同盟たちだが、まだ諦めるのは早いだ――。突然空からそんな声が降ってきたのだ。
「その声は、まさか……!」
降りてきたのは勇者でもなんでもなく、ただのスペースデブリだった。
「がはっ……!」
致命傷を負った魔王軍。
「ク……クソ! 今日のところは降参でえ!」
かくして魔王軍たちは、また別の星に飛んでいった。
その星は地球という名前で、スペースデブリの向きをロケットの操作で変えて、あの飛行船に激突させるほど文明が進歩した強い星で、魔王軍は宇宙では弱いことを知らされ、数百年の間は眠りにつくことになる。
そして数百年後――。
果たして、勇者は現れるのだろうか。