第2話 ニシヤマン、思い立つ
「ねぇ、英雄君はさ、ニシヤマンの正体知ってる?」
「へ?!」
授業中、隣の席の愛子ちゃんからの突然の質問。愛子ちゃんはひそひそ声で尋ねてきたのに、僕はあまりにも突然なその問い掛けに(ってゆーか突然の愛子ちゃんのドアップに)びっくりして声をあげてしまった。
「こらっニシヤマン!授業中に騒ぐんじゃありません!!」
教壇に立って国語を教えていた若菜先生が僕に向かって叫んだ。英雄は思わず椅子から立ち上がる。クラスのみんながドッとわいた。と、いってもこのクラスには村中から集められた小中学生合わせて7人しかいないのだが。
「先生、ごめんなさい!宇宙から救難信号が来てたもんですけぇ…」
また、クラスがドッとわく。愛子ちゃんもクスクスと笑っている。
(なんておしとやかで可愛い笑い方なんやろか…)
英雄は愛子ちゃんをチラ見しながらニヤついた。なんていやらしいヒーロー。
「…もういいわ。席着いて。授業を再開します。」
呆れたように若菜先生が言う。いつもの授業風景。
「英雄君はいつも面白いねぇ。」まだクスクスと笑い続ける愛子ちゃんが、また話し掛けてきた。さっき怒られたばかりだというのになかなか肝が据わってる。さすが田舎育ち。
「クラスの皆も、村の皆も、英雄君のこと、ニシヤマンって呼ぶんは冗談なんよなぁ。酷いわぁ、皆してからかったりして。うちは絶対、英雄君の味方やからね。」
なんともまぁ天然発言の愛子ちゃん。でも英雄には、この「うちは英雄君の味方やから」という言葉しか聞こえていなかった。
(愛子ちゃん…絶対、僕のこと好きやろ!間違いない!なんかニシヤマンのこと気に入っとるみたいやし僕の正体ばらせばもうメロメロや!!!)
「あんな、愛子ちゃん!僕…」「うっさいわニシヤマン!授業聞かんのやったら出て行きぃ!!」
ついに若菜先生がぶちギレた。僕は廊下に放り出されるというなんともベタな仕打ちをうけたのだった。
12月、田舎の木造校舎の廊下はとても冷えていた…。
「くそー、若菜星人めー。よくもこげん寒い廊下に追い出してくれたな…!愛子ちゃんにも正体ばらせんかったし…」
しばらく、誰もいない廊下で1人ぶつぶつ言うヒーロー。
「……そうや!」
何かを閃き、顔をニヤつかせた。この時点でろくな思いつきでないことは容易に伺える。
「ただ正体ばらすだけじゃあつまらんし、どうせやったらハナコのときよりもっとカッコイイことして、より愛子ちゃんをメロメロにしてからばらそう!」
さすが僕は思いつくことが違うのぅ、とつぶやいたころ、授業終了の鐘がなった。
なんだってこんなものを作ろううと思ったんだろう。昔の人が考えることが全く分からない。
ただ、それが僕の目の前にあるのは確かなことで、僕はそれを触れずにいた。
触るにはなんとも奇怪で、恐ろしく、僕にはとても扱えるものではなかった。
それはある時突然現れた。空から降ってきたのか、地から沸いて出てきたのかは定かではないが、突然現れたのだ。
すくなくとも、僕の知る限りではの話だが。
とりあえず伝えなければならなかった。それが使命だと感じたからだ。僕はそれをそのままに急いで家に帰った。 家に帰ると、家の中にはまだ誰もいなかった。いつもはいるはずの両親もどこかに出かけていた。
居間に置き手紙を見つけた。
『旅に出ます』
またか。うちの両親はなんの前触れもなく、意味の分からないことを思い付き、実行する。
かといって、そんな両親が嫌いではなかった。
僕は置き手紙をそのままに自分の部屋に行った。部屋にあるデジカメをとって、再び家を出た。
さっき、不思議なものをみた公園へ急いだ。あれがこの短時間のうちに誰かの手に入っていたらどうしよう、という不安はあったが、公園に着いたときには、そんな不安も杞憂に変わっていた。
それは同じ場所にあった。青白い光を放ちながら存在した。透明な箱のようなものに入っていた。箱のようなもの、この世界では見たこともない箱であった。算数の教科書にのっていそうな直方体の中にふわふわと浮いていた。