あるロボットが消滅するまで
地球最後の人間が生涯をかけて一つのロボットを発明をした。
そのロボットは人間により荒廃しきったこの星を元に戻すために造られたのだ。
「君に意思はない。君に善はない。君に悪はない。そして、君に寿命もない」
ロボットの開発者である女性はまるで愛の囁きのようにロボットにそう告げる。
最後の人類となった彼女は自分達人間の罪を清算しようとしたのだ。
死の星となった地球を元々の姿……即ち命の星に戻す。
「欲望も本能の無い君だからこそ、それが出来る。だから……」
言葉を切り、ロボットの電源を入れた。
命を感じない無機質な音を立てながら動き出すロボットを見つめ、彼女は満足気に笑うとそのまま息を引き取った。
何百年。
何千年。
あるいは何万年の時間が掛かろうとも、きっとロボットは使命を果たすと理解していたから。
「ごめんね」
死の間際、ぽつりと言い残して。
事実。
ロボットは悠久の時を使い、死の星を命の星へと戻した。
かつて、草木の一本も見られない荒廃した大地には草花が生い茂り、這う虫さえも見ることもできなかった地面には様々な動物が生きていた。
もし、ロボットに感情があれば、きっと自分の設計者が望んだ光景を取り戻したことに達成感を抱いていたことだろう。
しかし、ロボットには感情はない。
故にロボットは命の満ちた星で終わらない役目を果たしていた。
それからさらに時が経って。
人間によく似た種族が台頭し、人間と同じ過ちを犯し始めた。
もし、ロボットに意思があれば、きっとその種族を滅ぼし尽くしただろう。
再びこの星から命が失われるという絶望感に支配されていたはずだから。
しかし、ロボットには意思はない。
故にロボットは段々と死が広がる星で終わらない役目を果たしていた。
さらに、さらに時が経って。
人間によく似た種族は他の命を巻き込みながら滅び去った。
もし、ロボットに思考があれば、きっと無力感に苛まれていただろう。
しかし、ロボットには感情も、意思も、思考もない。
故に、ロボットは再び死の星となったこの星を再び長い時を使いながら役目を果たし続けた。
ロボットの開発者は感情も、意思も、思考も持っていた。
故に何となしにこのような未来になることを理解していた。
だからこそ、ロボットに謝りながら死んでいったのだ。
しかし、ロボットにはそれらがない。
故に今日も役目を果たし続ける。
果たし続ける。
このロボットの悲しく、無意味な行動は、この星が消滅する日まで続いた。
しかし、ロボットは何も思うことはなかった。
何も感じることはなかった。
それを幸運と見るか、不運と見るかは人間が判断するところである。