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極東風紀調査隊アルファ  作者: スマ甘
chapter.1 『I'll wait for you there forever if I have to.』
3/5

「グラント、目的地はまだなの!」

「もうエネルギーが保たねぇぞ!」

「レジスタンスの人たちもかなり消耗しているわ」

 

 最初に合流できた男女3人のメンバーの声が、背後で響く。

 

「もう少しだ。 あともう少しで、合流ポイントに到着する!」

 

 オレの名は、グラント・レイエス。

 日本に派遣されたIPMIのメンバーのひとりで、今は現地で合流したメンバーを率いて案内係の元へ向かっていた。

 だが、港でレジスタンスと治安維持局の戦闘に巻き込まれてしまい、ヤツらから執拗な追跡を受けている。

 

「俺のオメガは消費が激しい。 ヤツらに追いつかれたら真っ先にガス欠になっちまう」

 

 日本に入国して最初に合流したメンバーのひとりであるエリアスは、己のメインウェポンであるオメガの状態を気にしている。


「追いつかれたら、オレが先頭に立つ。 エリアスはギリギリまで温存しろ」


 オレたちやレジスタンス、そして治安維持局が使う次世代の武器『オメガ』は、コアである『アマガツ』と呼ぶ器官を持ち、特殊な細胞『ミドリゴ』を生成して運用する生体兵器である。

 オメガは、ミドリゴを変換して弾丸にしたり、バリアを展開したりできるが、コアがミドリゴを一度に生成できる量には限りがある。

 これをオーバーすれば、しばらく戦えなくなってしまうのだ。

 

「そうは言っても、あなたもギリギリじゃない! 時間だって無いのに⋯⋯」

 

 オレとジムの会話に割り込んできたのは、アルファでキツネ獣人の女性、カトリーヌだ。


「多少の無茶はきく。 このまま走り続けるぞ!」

 

 オレたちの背後に迫っているのは、治安維持局が主力としている歩兵型の人型ロボット。

『カフス』と呼ばれる、日本国内で最も数の多い機種である。

 

「レジスタンスがもう少し静かにしていれば、ムダに消耗することなく先に進めたのに」

 

 つぶやいたのは、中国から来た女性エージェントのチョウだ。

 

「そんなこと言うなチョウ。 彼らだってやりたくてやってるわけじゃないんだ」

 

 オレは走るスピードを上げ、目の前に立ち塞がろうとした2体のカフスを叩き切る。

 

「オレのオメガはまだ余力がある。 おまえたちはエネルギーを防御に回して、背後からの攻撃に備えてくれ」

「了解」

 

 仲間に指示を出しながら、オレは自分のオメガ『グレイマン』のステータスを網膜投影で表示させた。

 グレイマン自体はシューティングモードを搭載したひと振りの大剣だが、子機となる『アルバートF』と組み合わせることで真価を発揮するオメガだ。

 だが、ミドリゴの残量が少ないいま、消費が激しい二刀流での戦闘は不可能。

 消耗が激しいシューティングモードも、この状況では封印するしかないだろう。

 

「みんな聞いて! 別働隊が1時方向より接近中だよ!」

 

 ビルの屋上に登ったカトリーヌが報告する。


「距離は!?」


 人間離れした身体能力と五感を持つアルファの中でも、視覚と嗅覚と聴覚が優れている彼女なら、光学機器を使わずとも敵の位置を把握できるはずだ。

 

「距離はあと300。 種類はカフスが30機、タケヤ3機、キサイ2機よ」

「中型が2種類もいやがるのか」

 

 タケヤは全高3メートルあり、重装甲とパワーがウリの機体で、キサイは四脚型で機動力に長けた強行偵察型の機体だ。

 

「カフスをタケヤで守りながら前進して、キサイが先行しながら追い込んでいく⋯⋯ってところか」

「この辺りは入り組んでるから、キサイの機動力が最大限に引き出されるわ」

「狭い所を抜ければキサイの追撃はまけるけど、タケヤとカフスとの距離が詰まっちゃうね」

 

 オレが指示するまでもなく、メンバーがそれぞれ意見を出していく。

 

「1ブロック先を右に曲がったら反転して、一番先頭のキサイを叩く」

「そんなことしたら、タケヤに追いつかれるわよ!?」

 

 チョウがオレの指示に噛みつく。

 

「このまま目的地に辿り着いても、案内係を巻き込んじまう」

「だけど、ここで消耗したら⋯⋯」

「どうにもならない時は、オレを残して先に行け。 オレひとりの損失くらい埋められるだろ」

「グラント⋯⋯」

 

 オレはチームのリーダーじゃない。

 リーダーは別ルートから向かっていて、リーダーの率いるチームは全員無事だと秘匿通信があった。

 潜入任務や集団での戦いにおける指揮能力はあちらが上だ。

 オレは最前線に出て戦うことしかできないから、いつかは死ぬ。

 それに、タイムリミットも迫ってる。

 

「――ちょっと待って!」

 

 カトリーヌが声を上げた。

 

「最後方から反応がひとつ。カフスの後ろを守っていたタケヤを撃破してから、その間を縫って上がってきてるよ! 」

「敵の群れの中を突っ切ってきたってのか!?」

 

 カトリーヌの報告を聞いて、エリアスは目を丸くする。

 

「敵の動きも変わった! タケヤが左右に分かれて、カフスもそれに続いてる。 キサイもスピードを落としてタケヤと並走してるよ」

「スピードが少し落ちるわね」


 オレたちの視界には、カトリーヌから共有された敵の位置データが共有される。


「今のうちに陣形を整えろ。 このままキサイを仕留めるぞ!」

「了解」

 

 オレたちは、万が一のために半分だけミドリゴを残しておいたカートリッジを装填する。

 そしてシューティングモードでオメガを構え、物陰に潜み、キサイがやって来るのを待った。

 その直後――

 

「――!」

 

 キサイに攻撃を仕掛けるポイントに定めた空き地に、何かが飛んでくる。

 それは、強い力で引きちぎられたキサイの頭部だった。

 

「キサイが1機撃破された⋯⋯」

「後方からやって来た反応が仕留めたんだな」

 

 カトリーヌとエリアスが、音量をギリギリまで抑えて呟く。


「でも、これじゃ⋯⋯」


 ここでキサイが撃破されたということは、タケヤとカフスの群れが瓦礫の向こうから姿を現すということになる。

 厄介なのは、戦う相手が、耐久力が低くて不意を突けば倒しやすいキサイではなく、硬くて一苦労するタケヤたちに変わったことだ。

 

「敵が来るよ!」

 

 オレたちは瓦礫を睨む。


「構えろ」


 無造作に積まれた瓦礫を登って、2体のタケヤが姿を現した。


「来たぞ!」


 オレたちトリガーにかけた指に力を込めた直後、1機のタケヤを足場にして、何者かが跳躍した。

 

「ヒト!?」

 

 空中で身を翻したその人影は、鞘に納めたままの刀型オメガを真下のタケヤに向ける。

 先端から放たれたレーザーはタケヤのコアをピンポイントで撃ち抜き、タケヤを沈黙させた。

 

「みなさん、無事ですか」

 

 機能を停止したタケヤの上に着地したヒト⋯⋯まだ10代前半の少年が、オレたちを見る。

 

「案内係か」

「合流ポイントまでこいつらを連れて来られると困るので、助けに来ました」

 

 案内係の少年は、タケヤから飛び降りて向かいの物陰に隠れた。

 

「あいつ、まさか⋯⋯」

 

 顔はよく見えなかったが、案内係はオレの知ってるヤツかもしれない。

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