1/5
プロローグ
真夜中。 部屋にいるのはふたりだけ。
静かな部屋のなか、ボクは体の大きな男の人に抱きしめられている。
その人は、強く、とても強く、もう離さないという意思を込めて、ボクのことを抱きしめていた。
「逃げるなら、いまだぞ」
その人は言う。 でもその声は震えていて、体にはじっとりと汗が滲んでいる。
きっともう、限界が近いのかもしれない。
「ボクはもう、逃げないよ」
ボクは答えた。
そうだ、ボクはもう逃げない。
逃げずに立ち向かうって決めたんだ。
「本当に、良いんだな?」
その人は、ボクを見つめる。
見慣れた金色の瞳には、獲物を睨むケダモノみたいな迫力があった。
「いいよ」
ボクは答えた。
「――ごめんな」
目を伏せ、小さな声で呟いてから、その人はボクのうなじに噛み付いた。