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物語の結末は 4




「あの、オリビア……」

「どうしたの?」


 一つの話題が終わり、紅茶で喉を潤していたオリビアに、カシアンは躊躇いがちに口を開く。


「もしご迷惑じゃなければ、もう一度神聖力を見せてもらえませんか?」

「う〜ん……」


 オリビアが煮え切らない態度で言葉を濁すから、カシアンはしゅんと落ち込んだ。


「すみません。嫌ならいいんです……」

「あっ、違うのよ!そうじゃなくて……って、説明するよりも見せた方が早いわよね。私の部屋に行きましょう」

「へっ部屋ですか!?」


 頬を紅潮させ動揺するカシアンの様子には気付かず、オリビアは「そうよ」と立ち上がった。そしてすぐにカシアンを連れて自室へと向かう。


 想いが通じた婚約者同士とはいえ、部屋で二人きりになるのはまずいのではないかと思いつつも、カシアンは僅かに期待しながらオリビアの部屋に足を踏み入れた。


「あの、これは一体……?」


 しかし、目の前にあるのは想像していたような甘い空気ではなく、禍々しい黒い靄がかかった水晶で、カシアンは呆然と尋ねた。


「神聖力の訓練ができる魔道具らしいわ。このまま見てて」


 そう言ったオリビアが手を翳し神聖力を込めれば、黒い靄が消え、透き通った水晶に変わっていく。カシアンの頭の中に、ふと疑問が浮かび上がった。


「なんだか、舞踏会で見た神聖力とは違いますね?」

「そう!それよ!」


 同じことを思っていたと、オリビアは声を上げて喜ぶ。カシアンの言う通り、舞踏会の時に溢れ出た金色の光は、もう出てこないのだ。


「何度か試してみても何も変わらなくて……もしかして幻覚でも見てたんじゃないかと不安だったの」

「いえ、あれは間違いなく輝いていました。僕は天使が間違えて落ちてきてしまったのかと……」

「と、とにかく!やっぱり見間違えじゃないことが分かって良かったわ」


 カシアンがサラッと恥ずかしい発言をするから、オリビアはすぐに話題を変える。

 呼吸を整えるように一息置き、再度口を開いた。


「カシアン……私、神官を目指そうと思ってるわ。完全に人に戻る方法もまだ分からないし、舞踏会での神聖力のことも気になるし、知りたいことが沢山あるから」


 聖女の称号や、他人からの称賛などではない。ただ単に、もっと自分のことを知ってみたいと思う。


「あまりにも未知すぎて、不安がないと言えば嘘になるけど――だけどどんな結果になったとしても自分で選んだ道なら、きっと後悔だけはしないと思うの」


 清々しい表情でオリビアは笑った。

 不安を感じさせないのは、強りなどではなく、意志を固めたからだろう。だからカシアンも、オリビアの決意に応えるように微笑みかける。


「はい。オリビアが決めたことなら、いくらでも応援します。だけど、一つだけ約束してほしいんです」

「約束?」

「もう一人で抱え込んで苦しむのはやめてください。まあ、今回の件を言えなくさせてしまった原因は僕ではあるのですが……」


 過去の行いを思い出し、いきなり一人で反省をし始めたカシアンだったけど、幸いすぐに気持ちを切り替えられたらしい。咳払いを一つして、話を進めた。


「つまり何が言いたいかと言うと、僕はどんな時でもオリビアの味方だということです。――オリビアの決めた選択が間違いだったとしても、僕は肯定します。前が見えない時は、僕が代わりに先を歩いて安全を確かめます。オリビアの笑顔が曇ることがないように、一番近くで守らせてください」


 カシアンの真っ直ぐな言葉が、心の奥底に深く浸透していく。震える唇にぎゅっと力を込めたオリビアが、口角を上げた。


「もう弱いフリもやめることにしたの?」

「…………僕は、とにかく過去の自分が恨めしくて仕方ありません」

「ふふふっ!ごめんなさい、少し揶揄ったわ。カシアンのお願いを聞く代わりに、私とも一つ約束してちょうだい。……もう猫を傷つけるような事はしないと約束してほしいの。あっ、待って!猫だけじゃなく、どんな動物でもダメよ!」

「すぐに動物愛護団体を開設し、この世の全ての動物を守ると誓います」

「そこまでじゃなくていいんだけど!?」


 オリビアはただ、首を絞めたり剣を向けたりしなければそれで良かったのに。カシアンが重すぎる誓いを立てようとするから必死で止める羽目になった。


「……あれ、オリビア。水晶がまた黒くなってますが」

「繰り返し使えるらしいのよ。とっても便利よね」

「実は不良品だったりしませんか?」

「違うわよ、ほら!」


 カシアンの疑いが晴れるように、オリビアは再び神聖力を流し込む。綺麗になった水晶をドヤ顔で見せつけた。


「にゃう!」

(ほらね!)


 水晶に向かって右手を差し出したオリビアは、違和感を感じて顔を上げた。カシアンが巨大化していた――わけではなく、オリビアが小さくなっている。つまり、猫に変わっていたのだ。


(最近はコントロールすることにも、慣れてきてたのに……!)


 やっちゃったと、オリビアはその場で項垂れる。カシアンの顔をなんだか見れずにいれば、不意に手が差し伸べられた。


「オリビア」


 誓いでも立てるかのように片膝をついたカシアンが、優しい声色でオリビアに話しかける。


「あの日、気付いてあげることができず、すみませんでした。どんな姿だとしても、オリビアはオリビアです。……誰よりも、大好きです」

「……!」


 カシアンの口にした言葉は、オリビアが大事にしている本の一節と似ていた。一番聞きたくて、叶うことのなかった言葉。


(……もうっ、言うのが遅すぎるわよ!)


 それでも今言ってくれたから、オリビアは笑って許してあげることにした。抱き上げてくれるカシアンに向かって、オリビアも両手を伸ばす。


 物語ならきっと、この瞬間はめでたしめでたしで締め括られる最後のページだろう。

 だけど、オリビアの人生はまだまだ続いていく。

 終わりではない。今日が新たな始まりだった。



《完結》




これにて完結です。のろのろ更新でしたが、最後までお付き合いくださりありがとうございました!

連載中はブクマ、評価、リアクション、感想など活力を頂いていました。本当にありがとうございます;;


今後も執筆を続けていくので、またどこかでお会いできたら嬉しいです。

宜しければ下↓↓の☆より評価の方を頂けると、今後の励みとなります…!

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