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欲望ミミック ~人間は宝箱に詰め込み過ぎる~  作者: 雪村灯里


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幸せミミック

「いっただきまぁ~す!!」


 薄紫色にキラキラときらめく水晶を、私はポリポリと(かじ)る。

 ひゃ~! こんな所でアメジストに出会えるとはっ!!  幸せ~!!!


 私はミミックの『ミュウ』。

 名前は人間に付けてもらった。


 ミミックは宝箱に擬態して、近づいて来た獲物を食べるモンスターだ! 待つのもいいけど……。私はダンジョンを移動して、餌を食べに行く事もしばしば。だって、お腹が減るんだもの。


 そして、ここは『ギルド・ローレヌ』が管理する、難易度A級の天然洞窟ダンジョンの奥深く。


 ドラゴンの髑髏(どくろ)を通り越して、その先の入り組んだ道を進むと、私のテリトリーが有る。ここは鉱石が多いし、モンスターの通り道なので餌には困らない。


 冒険者も滅多めったに来ない天国だ! にゃはは!

 このダンジョンに住んで、どれ位になるだろう?――100年位かな?


 いいや、言葉を覚えて100年か! 生まれた時期は……覚えていないや。

 まぁ、それくらい快適・平穏・安泰です。

 

 鉱石を食べるミミックなんて変?

 そう、確かに珍しいと思う。同族は食べないらしいね。もったいない!


 私も初めて食べた時はびっくりした。当時はモンスターしか食べたこと無かったからね。こんなに美味しいものが有ったとは!


  鉱石以外にも、好きな食べ物ありますよ。――植物とか!


 あっ! たまには薬草も食べたいなぁ……。そろそろ季節も春、草木が萌える季節だ! 新芽の柔らかさは一度食べるとクセになる。

 


 あぁ……考えただけで “じゅるり” と唾液が満ちる。

 


 そうだ! 新芽を食べに、ダンジョンの浅い層へ登ってみよう。冒険シーズン本番に入る前に行かなくては!!


 私はバコンバコンと飛び跳ねながら、目的の地へと駆けだした。



「最高~! おいひいぃ!!!」



 ダンジョンの中には日の光が差す場所がある。そこには薬草が群生するので春に薬草をむのが私の楽しみだ。

 私の目論もくろみ通り、薬草たちは今年もすくすくと育っていた。薬草以外にも香草も大好物である。私は草花の新芽を触手で摘んでは口の中に放り込む。


「ご馳走様~! お腹いっぱ~い」


 ほんと、ここはこの世の楽園だよ。美味しいものいっぱいで。今日はポカポカと温かいし。にゃー! 最高。


 私は春の日差しも相まって、眠くなってきた。…………まぁ、この時期は冒険者もまだ来ないし?……ゆっくり眠りますかぁ。



 私はスヤスヤ~と春の惰眠(だみん)(むさぼ)った。


 ……


 ………… 


 ――――――

 


 ん……? 少し肌寒いなぁ、日が(かげ)っちゃった?

 


 私は肌寒さで目が覚めた。外の様子を見ようと、蓋を開けようとするが……

 

 あれ? おかしい。


 体が……蓋が空かない。開けようとすると何かで抑えられているのか、びくともしない。

 モンスターでも上に乗っているのかな? 前もあったんだよね、私の上で昼寝して。でも、あれ? あの時と比べると……重みが無い。


 心なしか揺れている。体の底がスース―して、浮いていると言うか……。そして極めつけは――


「もう少しで地上だよ。頑張れー!」

「「おー!!」」



 ――――ひゃぁぁぁぁぁ!!!



 今、人間の声が聞こえた!? もしや私、搬出されてる?

 私は耳を(そばだ)てて様子を窺う。


「これ、なにが入っているんだろうな? 結構重いよな? 金貨とか良いお宝が入っているといいな!」

 

 ……何とも、希望溢れる楽しそうな声! いやいやいやいや……。残念ながら、入っているのはミミックです。


 もう! 人間よ、運ぶ前にミミックか宝箱かをしっかり調べてから搬出してよ! まったく……。いや、待って!?  それよりも……。ウソでしょ? 私はとある事実に気付いて愕然とした。


 このダンジョンは、これからモンスターがたくさん発生する時期でごちそうも多いのに!!

 あぁ……!! 隠しておいた鉱石たち……。食べておけばよかったぁぁぁぁ!!!

 やめてっ!! せめて、食べ終わってから連れ去って!! やだぁぁぁ!!!


「――? おい。今、何か言ったか?」

「いや、空耳じゃないか?? 疲れてるんだよ」


 私は楽しみにしていた食事達をダンジョンに残し、後悔に満ちた心の叫びと共に、地上へと連れられてしまうのであった。


 

◇ ◇ ◇



 美味しいものを食べられず、拗ねていた私は「よいしょ」の掛け声とともに安定した場所に置かれた。


「よし、お疲れさま。では当パーティーの戦利品であるこの宝箱の開封の儀と参りますか」

「いぇーい!」「フゥ――!!!」


 人間が……キャピキャピしておられる。彼らが私を開けた後のリアクションが触手に取るように分かる。落胆からの怒り討伐セットで……絶対に退治される。


 終わりだ。開けられたら終わりだ! 何としても閉じ籠ろう……。人間が私の蓋に手をかけ、私を暴こうと力を込めた。



 ぐぬぬぬぬぬ……絶対に開けないもん!



「――っ! 駄目だ、びくともしない。鍵が掛かっているのかも」


 ふっ……残念だねぇ人間。開かない宝箱なんてさっさと諦めて、元の場所に戻しておくれ。

 さて、次は何をするのかな~。お手並み拝見といきますか。


 私はほくそ笑みながら、外の様子を鍵穴から見ようと窺うが……



 ――ざしゅっ!!



「ひぃっ!」


 目の横を鋭いもが掠めた。

 それは鍵穴から直ぐ抜かれた。だが『それよりこっちの方が――』など聞こえて……更に鋭利な物を手に持っている!!


 ひぇっ……。待って? 何刺そうとしてるの!?

 やだ! そんなの刺したら私、壊れちゃう!! 死んじゃう!!!


 じわじわと、凶悪なそれは近づいてくる…………。もう、どちらにしてもジ・エンドだ。

 それならば……。私は痛くない方を選ぶ!


 私は凶悪な(ブツ)が差し込まれる前に、観念して蓋を勢いよく開けた。


 

 ガタンッ…………。 



 いきなり開いた私を前に、人間達の間に緊張が走る。人間が後ろに飛び退いて、剣を構える音が聞こえた。


 反撃も考えたけど……3対1では分が悪いかな?

 私を暴こうとした人間の男が、恐る恐る覗き込んできて……目が合った。私は軽く会釈をする。


「ども……」


 男は私を見て――無表情で蓋を閉じた。

 退治……。されない?



 何やら外が騒がしい。



「ええ! どうして閉めるんだよ? 何が有った? 見たんだろ? 教えてくれよ!!」

「え? もっとすごいお宝だった? 見たい見たい!!」

「……ああ。ちょっと待て、触るな! 何か隠すもの……。いや、そのブランケットでいい。貸して!!」


 そしてまた、静かに蓋が開かれた。同時に隙間から布をバサッとかけられる。



 ……はい?



 布を掛けられて視界を遮られた私は、布を触手で掴み、そっとずらして覗き見る。

 何が起きているのか分からず困惑していると、先程の人間の仲間と思わしき者たちも私を覗きこんできた。


「――え? 嘘でしょ? 金貨じゃない……」


 あああ……金貨じゃなくてごめんね。そうなんです、ミミックなんです。終わった……最後の晩餐は薬草の新芽だった。…………悪くはないか。


 最後の晩餐に思いを馳せていると、最初に目が合った男が手を伸ばして私の本体を触った。

 

 ひぃ……!!

 

 私は一瞬ブルっと震えた。人間に触れられた所がじんわり温かくなり気持ちがいい。


 そうだ人間って(あった)かかったな……。


 人間を見つめたら目が合って、驚いたように手が離れて行った。

 触った人間は若い男の個体で、ブラウンの髪にアーモンド形のぱっちりした目に緑の瞳。

 大人になりたてと言った所か? 何処(どこ)かで会ったことが有るかなぁ。懐かしい感じがした。


 私はゆっくりと箱の淵に触手をかけて起き上がる。彼らは剣を構えているので私は攻撃の意志が無いことを示すために触手を挙げた。昔そう教えられたことが有る。

 私が動いたことで、掛けられていた布がばさりと落ちた。


「それ以上動くな! 分かったから!!」


 どうやら敵意が無いことが伝わったようだ。良かった~。男は剣を構えながら、手探るように近くにあった別の布を拾うと、素早く私に掛けた。


 あ~……。そうだよね? ミミックの中身なんて、人間からしたらグロテスクだよね。恐怖を与えて退治されては敵わない。私は触手で布を掴み、隙間から頭を出す。


 そうだ……。発声してみよう! 久々だけどできるはず。


 コホンと咳払いをして、ゆっくりと人間の言葉を発声する。



「あのう……。私の事、退治しないでください。できれば痛くしないで? 人間が喜ぶお宝も持っていないから……。ごめんね?」


 上手くいったかな?


 いや、逆みたいだ。空気が凍りついた。間を置いて彼等がざわめく。

 喋れるからって調子乗っちゃった? 逆効果だったのかもしれない……。


「人の言葉を使う魔物か?」

「お前何者だ?」


 まだ、希望は有る! 私は自己紹介を始めた。


「私はミミックの『ミュウ』です。100年くらい前からあのダンジョンに住んでました……」

「名前まであるのか!?」


 更に人間がざわつく。ヤバい、希望が消えそう。

 私は困り果てて辺りをきょろきょろと見渡す。


 話をして油断してもらおう。何か話題にできる物は無いだろうか?

 本が多いなぁ……。あと壁には肖像画も沢山……。あれ?



「メリッサ?」



「「「え?」」」

 

 肖像画の中に見知った顔が有ったので、思わず触手を肖像画の方向に向けて伸ばしてしまった。


「私、あの女の人知っています! メリッサ!」


 色褪せた肖像画の彼女を見たら、私の中で彼女と過ごした穏やかな日々の記憶が色鮮やかに甦った。


 忘れもしない。そう、それは約50年前の出来事だった。

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