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欲望ミミック ~人間は宝箱に詰め込み過ぎる~  作者: 雪村灯里


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19/29

もやもやミミック

「にぁああああああああああああ!!!」


 私は過去に起きた出来事の夢をみて、目覚めた。

 蓋を勢いよく開けて起き上がる。


 勢いよく開いた拍子に、蓋がガコンと派手な音を立てて壁にぶつかった。その衝撃で、壁に立てかけてあった杖が倒れて、私の頭にポカーンと直撃した。


「ううううううううううっ…………!」


 真っ白くて、大きな木製の杖。

 グリップの部分はピンクとブルーの布が交互に巻かれている。更に革紐も巻きつけられており、その先にビーズや羽飾りがついて動かす度に揺れて可愛い。これは友達から譲り受けた杖で、ダンジョン内ではこれを使って移動していた。彼女が拘って作った杖なので可愛いだけではなく()()()()()()丈夫だ。


 そんな丈夫な杖に怒られた。私は杖を手に取りそれに語りかける。


「やっぱり、ローザも怒ってる?」


 もちろん杖は何も答えてくれない。「はぁ……。だよね」私はため息を吐いて杖を体の中にしまった。そして夢を反芻して自己嫌悪に陥る。


 私は何てバカなんだろう? 冷静になれば分かる事じゃない。


 半年前、ダンジョンである人物にお願いされた頼まれ事。私はそれに対して心の整理が出来なくて、実行できずにいたが……今、整理が完了した。


 私は服を着て髪を整え、幼馴染ズの活動部屋に入る。

 部屋には既にシトロネラが居て、剣の手入れをしていた。


「おはよ、早いね~」

「おはよう、叫び声が聞こえたけど大丈夫?」


 ――うっ!

 私は活動部屋隣の倉庫となっていた部屋で寝泊まりしている。やっぱり、あの絶叫は聞こえていたらしい。


「驚かせてごめんね? 昔の夢を見て驚いて叫んじゃった。……ねぇねぇ、カクタスって冒険者知ってる?」

「いきなりなんだい? カクタス……。あぁ。半年前ミュウが居たダンジョンで生還した人だね。昔、ギルドの講習会でお世話になった事があるけど……。どうしたの?」


わあぉ……! 期待せずに聞いたのに、まさか知っているとは……。最近全てが都合良く進んで、自分でも怖い時が有る。


「その人に、会いたい」


 私の希望に、シトロは少し考えてから困ったように答えた。


「……やめておいた方がいいんじゃないかな? その人、事件のショックで酷く塞ぎこんでいるんだ。今も家で療養していたはずだよ?」


「……知ってる。パーティーメンバーと、好きだった人亡くしたんでしょ? その『好きだった人』から伝言を預かっているから……渡したいんだ」

「……え?」



 ◇ ◇ ◇


 後日、カクタスと会う約束を取り付ける事が出来た。私はシトロネラに連れられて彼の家に来た。彼の家の窓はカーテンで閉ざされていた。


「こんにちは! ギルド・ローレヌのシトロネラです」


 扉を叩きそう叫ぶと、しばらくして扉が開きその隙間から男が顔を出した。

 二十代半ばのカクタスは酷くやつれ、無精ひげが生えている。目にも生気が宿っていない。彼の負った心の傷は私の想像以上に深そうだった。


 彼はシトロネラと私の姿を見て驚き息をのんだ。驚きながらも彼は家の中へと私達を招き入れた。


「どうぞ……。中へ……」


 私達は彼の家の中に入りソファに勧められ座った。彼はカーテンを開けお茶を淹れて、もてなしてくれた。彼も座り、シトロと簡単な挨拶を交わすと、話しが始まる。


「今日はどういったご用件で……?」

「僕の隣にいるミュウから、あなたにお伝えしたい事が有って伺いました」


 私はカクタスにぺこりとお辞儀する。

 彼は亡霊でも見るかのように怯えた目で私を見つめている。まぁ、彼にとって私はダンジョンの亡霊に近い。


 私はゆっくりと話し始めた。


「はじめまして……ではないですね。お久しぶりです、カクタスさん。今日は体調が優れないところ、無理を聞いてくださって、ありがとうございます」


「まさかとは思うが……。君は……」


 カクタスの声は震えていた。次第に手も震えだす。彼は半年前のダンジョンで起きた悪夢を思い出している。


 彼の様子を見て、私にも迷いが生まれた。

 シトロの言う通り私はタイミングを間違ってしまったかな? 焦り過ぎたかな? でも、今日伝えないと、永遠に伝えられない気がした。


 私は姿勢を正し、彼を見つめて静かに話し出す。


「はい。半年前のあの日、ダンジョンで会ったモンスターのミミックです。『ミュウ』って言います。あなたに二つ伝えたいことが有って来ました。一つはローザからの伝言です」


『ローザ』という言葉を聞いてカクタスの肩がびくりと跳ねた。


 私が彼にモンスターである事を明かし、シトロは驚いていた。対照にカクタスはそれを聞いてどこか納得した顔をしている。


そう、私達は半年前に逢っていた。


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