第96話 軽くデモ
「え?水野作戦司令、榎本作戦司令とお知り合いだったんですか?」
飛鳥馬さんが聞いた。
「あぁ。水野1佐は、防大時代の先輩なんだよ。」
「なるほど、そういうことでしたか。」
「水野2佐、キミのチームには、良い物を見せてもらったよ。」
「いやいや、実戦対応なんで、面白かったとは思えないですが、こちらこそ、ウチのチームがお世話になっていて、ありがとうございます。あ、そうか、飛鳥馬君、当初の予定には入ってなかったけど、軽く、少しだけそこでデモをやってみるっていうのはどうかな?」
「なるほど、はい、了解です。水野作戦司令の依頼とあらば喜んで。」
「ははは、悪いね、飛鳥馬君。ありがとう。」
飛鳥馬さんが柏木さんとオレの方を振り向いた。
「軽くなんで、私が北海道の時と同じデモをするから、2人は休んでてもらって大丈夫だよ。」
そして、作戦室の中央に向き直して、声を張った。
「私がエスエスコンバットでデモをやります。準備をお願いできますか?」
作戦室の隊員達から歓声が上がった。
北海道と同じデモ。なるほど、飛鳥馬さんは敵編隊に真っすぐ突っ込んで、バレルロールしながら何事もなかったかのようにすれ違い、そのまま宙返りをしながら敵編隊を全機撃墜しつつ、失速して木の葉のように落下させた。そして海面すれすれでポップアップ、その勢いのまま次の敵編隊も全機瞬殺し、直ぐに急降下。ランディングギアを出したら地面を走れるほどの地面ギリギリで森の木々の間をすり抜けながら敵基地に向かっていく。基地に近づくと戦闘機の攻撃とは信じ難い、機銃の水平射撃だけで基地を壊滅させてしまう。作戦室は、シーンと静まり返っている。まさに北海道でのデモと同じ状況だ。飛鳥馬機は、燃え盛る基地を後ろにハイアングルで一気に超高高度まで登り、誰かに挨拶するかのように両翼を振ったあと、一気に、ほぼ垂直に急降下。そして雲を抜けたそこには敵空母の姿。直上から全ミサイル一斉発射して一撃で空母を撃沈。機体を引き上げると、今までの大騒ぎから一転して悠々と海上を飛行し始めた。
うん、見事に北海道のデモと同じだ。これだけのプレイを再生画像のように、全く同じ再現ができるとは、流石飛鳥馬さんだな。
作戦室が割れんばかりの拍手で溢れかえる。
榎本作戦司令が大きく手を振って、作戦室が静かになったところで、水野作戦司令に話しかけた。
「水野2佐、これは感動ものだね。ウチの隊員に代わって御礼申し上げるよ。ありがとう。良い後輩を持ってよかったよ。あはは。」
「いえいえ、ウチのチーム、よろしくお願いしますね。」
「了解、任せておいてくれ。では、ご苦労様でした。」
「失礼します!」
水野作戦司令のモニター画面が消えた。
オレたちが作戦室を出ようとすると、榎本作戦司令が握手をしてきた。
「ありがとう、本当に感動したよ。噂には聞いていたけど、まさに最終防衛線なんだな。君達のようなチームがあることを誇りに思うよ。私達ももっと訓練をして更なる高みを目指すので、お互い、国防のために頑張ろう。ここに滞在中に困ったことがあったら、なんでも遠慮なく、私に相談してほしい。今日はご苦労様でした。」
「こちらこそ、色々とご配慮いただいておりまして、ありがとうございます。失礼します。」
訓練室に戻ると、柏木さんが飲み物テーブルへ向かった。
「わたし、梅昆布茶飲もうっと。」
「柏木さん、梅昆布茶気に入ったの?」
「疲れた時に、この塩気が良いんじゃないかと思って。」
「なるほどね。私も飲もうかな。」
「あ、じゃ、わたし作りますよー。あ、下田くんも飲む?」
「お願いします。」
飛鳥馬さんとオレがソファーで待っていると、柏木さんが梅昆布茶の紙コップを持って来てくれた。
「はいどうぞ。おつかれさまー。」
「お疲れー。」
「おつかれさまでした。」
「プレイの内容は同じだけど、環境が変わるとやっぱり、ちょっと緊張するね。」
「そうなんですよ、わたしもちょっとドキドキしましたー。」
「あ、みなさんそうだったんですか。オレも緊張してたんですけど、オレだけかと思ってました。」
「そうか、こうして違う基地で過ごすのも、私たちにとって、良い経験なのかもしれないね。」
コンコン。ドアがノックされた。
「井上です。」
「はーい。」
柏木さんがドアへ行き、自動ドアを開ける。
「失礼します。今度は梅のさわやかな香りがしますね、あ、梅昆布茶ですか。」
「さっきまで防戦要請してて、今ちょうど作戦室から戻った所なの。なんか塩気あるものが良いかなーって思って。井上さんも飲みます?」
「いえいえ、結構です。直ぐ戻りますので。それより、防戦お疲れ様でした。皆さんにご相談、と言ったら良いのか、お知らせと言ったら良いのか・・があって、来ました。」
「なんですか?その微妙な話って?」
「あの、今夜の夕食なんですけど、隊員クラブの岡部店長から、今夜も離れの個室を空けてあるんで、是非どうぞ、とのことでした。皆さんがオーケーなら、官舎から夕食を運んでおくからって・・。」




