第90話 楽しまなきゃね
「バイト先の後輩とバイクで夜の山下公園なんて、アニメかマンガのストーリーみたいなのって、実際にあるんですね。身近な人から話聞くとちょっと、衝撃と言うか、あ、現実にあるんだなって。」
「そうか。下田くんは、初デートが高機動車ちゃんだったもね。」
「高機動車ちゃんってなんですか。色々混ざっちゃってますよ。」
「でもね、わたしもバイクの後ろに乗って海沿いの道を走るみたいな、ザ・アオハルって感じのデート、実はしたことないのよね。」
「へぇ、何でですか?バイク嫌いとかですか?」
「別に嫌いってわけじゃないけど、駅で待ち合わせして買い物行ったり映画見たりとかだったし、大学生になったあとは、車だったしね。」
「大学生ってみんな車持ってるんですか?」
「さぁ、東京の大学生はしらないけど、わたしは横浜経済大学だったから。横経は横浜市だけど、海沿いのみんながイメージする横浜じゃなくて、畑が広がってる、のどかな場所にあったのよ。駅も遠いし、アパートとかにも普通に駐車場があるような場所だったからね。安い中古車買って、自分で直して乗ったりしてる友達も多かったよ。もちろん、親が新車買ってくれるような子も結構いたけどね。」
「大学生にして格差社会なんですね。」
「そう言われるとそうかもしれないけど、本人たちはあまり気にしてないかな。もう大学生だから、ある程度世の中のことはわかってるし、いくら親ガチャとは言っても、大学まで来てれば、あとは自分で何とでもなるしね。どっちかっていうと、地方から出てきて一人暮らししてる子達は、親は仕送りで金かかってるから、車は自分で安い車買う、実家の子はその分車買ってくれることがある、みたいな感じ?もちろん、なかにはそれこそマンガの話みたいなネタになるような金持ちの子が居たりもしたけどね。」
「なんですか?マンガの話みたいな金持ちの子って?」
「そうねぇ、車の話だと、輸入業やってる会社の息子は、毎日違う車乗ってきてたたりとか、運転手付きの車で来てる女の子とか居たなー。」
「ちょっと金持ち話とは違うんだけど、私のゼミ仲間が土建屋で、自分の車が車検中だったかで、会社の車で来たっていって、ダンプカーで来てたヤツが居たな。学校の駐車場にダンプ、それも田舎の土建屋のダンプだから、デコトラみたいに飾り付けられてて、まぁ、異様に目立ってたな。」
「ダンプで来るのはインパクトだわー。」
「みんなで、なんだあれ?って言ってたら、そいつが、あ、オレのって言いだしてさ。大笑いだったよ。で、帰るとき、当たり前だけど、そいつはダンプに乗り込んでさ、ブオォォン、みたいにエンジンふかしてさ、エアブレーキのプシューって音を残して走り去ってたよ。もう、大爆笑だったね。」
「あ、わたしのゼミにも居たなー、そういうの。すっごい車っていうかモータースポーツ?好きな男子でね、なんていうんだっけ、あの赤い三角錐みないな工事現場に置いてあるやつの周りをグルグル回る競技。」
「ジムカーナかな?」
「あ、そうそう、そんなやつ。あと、サーキットも走るとかで、自分の車はシートも違うし、シートベルトもいっぱい付いてるし、車の中にパイプがいっぱい入ってたりする位車好きでいじってるの。でね、見せてもらおうと思って駐車場についてったら、レース仕様にしすぎて、普段は乗りずらいからって、家の軽トラで来てた。なんのための車なのよって感じよね。」
「やっぱ、大学生って高校生とは全然違うんですね。そんな車ネタとか、高校じゃありえないですからね。大学生やってみたかったな。」
「そーねー、でも、車ネタだけで言ったら、いや、デートネタも含めて、高機動車で初デートに行った下田くんには誰も敵わないけどね。」
「いや、それ特に嬉しくないですし・・。」
「そうだよ、私達も一緒なんだけど、下田君は今、誰にも出来ない経験をいっぱいしてるんだからさ、これからもまだまだ、いっぱい面白いことがあるよ。」
「そうそう、今のわたしたちの生活って、大学生のネタなんか相手にならないくらい刺激的だよー。」
「それはそうなんですけどね。確かに、お台場から横田にヘリで移動するなんて、大学生では絶対体験できないとは思いますよ。でも、オレはそういうのじゃなくて、もっと普通の中の面白い、を体験したかったんですよね。まぁ、それを言ってもしょうがないってのはわかってますけどね。」
「ま、そういうことだよね。それはさ、私もそうなんだけど、こんな世界線に来てなければもっと自由に、とか思うけどね、そこを言っても仕方ないから、今を最大限楽しむしかないんだよね。」
「そうそう。下田くんももっと積極的に楽しもうよ。」
「そうだ、楽しむと言えば、さっき岸壁で見せてもらったヘリコプター護衛艦に乗せてもらえないか聞いてみようか。私達じゃなきゃできないようなことをどんどんやってみようよ。」
「あ、面白そうですね。」
「よし、私が明日聞いてみるよ。」




