第89話 夜の山下公園
「わたし的には北海道の基地は、田舎に遊びに行った感じで、ここは地元に帰ってきた感じ?そりゃやっぱり港町生まれだからそうなるか。そうだよね。」
「オレは生まれも育ちも海なし県なんで、近くに海があるって新鮮ですよ。」
「あー、なるほどねー。ほら、この磯の香りが混ざった潮風、気持ちいいでしょ。っ港町って良いところなんだよー。」
「そうですね、オレ、横浜、なんでしたっけ、昔の船が泊ってる公園、あそこ行くとなんか気分が晴れやかになったのを覚えてますよ。」
「昔の船って・・氷川丸のことね、で、山下公園ね。あそこも独特だよね。ビーチでもなく、漁港でもなく、単なる岸壁でもなく、周りはビルが立ち並んで、ベイブリッジがあって、都会的な海って感じ?英語で言うとアーバンシティベイ?」
「そこ、その英語いりますか?」
「いいの!それも含めて雰囲気よ、雰囲気!」
「横浜、山下公園は関東人のデート定番スポットだったよね。今は知らないけど。」
飛鳥馬さんの呟きに柏木さんが反応する。
「え?飛鳥馬さん、山下公園でデート?誰、誰?いつですか?」
「彼女って訳じゃないけど、バイト先の後輩とね。高校生の時、バイクで行ったんだ。バイク2けつして夜の山下公園なんて、当時の高校生からしたら、ぶっちぎりトプクラスのデート先でしょ。」
「わー、凄いパワーワードですね、それ。高校生でバイク免許、バイク持ってる先輩、そして2けつ、で夜の山下公園、全部が揃ってますよね。」
「で、帰りに24時間営業のファミレスね。」
「あははは、そうそう。なぜか夜のファミレス行くのがカッコよかったですねー。」
「私が高校生の頃にはドリンクバーなんてなくて、コーヒーがおかわり無料で、店員さんがコーヒーのデカンタ持って、コーヒーのお替り如何ですか?って店内回ってたんだよね。」
「それ、知りません。わたしはドリンクバーでコーヒーもコーヒーマシンで自分で淹れてましたよ。」
「うわ、こんなとこでゼネレーションギャップだよ。こういう微妙な所で自分の年を感じるんだよね。そうか、柏木さん達は店員さんがコーヒー持って歩いてるの知らない世代か・・。」
「達って、オレはそもそも夜中にファミレス行かないですよ? コーヒー飲むならコンビニで良いじゃないですか?」
「うわー。更に世代が違ったー。これがZ世代かー。」
「友達に聞いたんですけど、オレの学校の近くのファミレスは深夜営業を止めたらしいですよ。」
「えー、24時間じゃないファミレスってなにー?」
「へぇ、時代は変わっていくんだね。私も夜中に煌々と灯りがこぼれる大きな窓と、燦燦と輝く大きな看板がファミレスだと思ってるんで、深夜閉まってるファミレスってちっとも想像できないね。」
「あれ?そういえば、ファミレスの話じゃなくて、後輩をバイクと山下公園を餌にしてデートに連れ出した不良高校生の話だったとおもうんだけど、そのお相手の事をまだ聞いてなかったじゃないの。」
「あのね、バイクと山下公園を餌にしてってなんだかな。向こうから誘われたんだからね、要は逆ナンだよ、逆ナン。」
「バイト先の後輩ですよね?じゃ、ナンパじゃないんで、逆ナンではないですよね?それを言うなら、逆告白ですね。ま、そこはどうでもいいや。で、どんな子だったんですか?その逆告白っ子は?」
「私が高校3年の時の1年生だったな。大学受験が終わってバイトに戻った時に、休憩が同じタイミングだったのかな、2人で休憩室に居たら急に、先輩、山下公園に連れてってくださいって言われてね。」
「ははぁ。大学生の青田買いだねー。うんうん。」
「まぁ、そうだろうね。バイク乗ってる大学生の彼氏って、響きが良かったもんね。私も別におかしな人じゃ無かったから、バイク乗ってて大学生ってだけで候補に入ったんだろうね。」
「で?深夜の山下公園の後はどうしたんですかー?」
「いや、深夜じゃないってば。夜だよ、夜。バイト終わってからバイク飛ばしてね。山下公園ぶらぶらして、帰り道でお約束のファミレス。メニューはチキンドリアとミニサラダね。」
「ははは、チキンドリア、何故かファミレス行くと頼んじゃうよねー。あー、懐かしい。で、その後は?」
「その後?帰ったよ。その子を家の前まで連れてってさ。」
「へー、それだけ?」
「そりゃそうでしょ。彼女でもなんでもないんだから。」
「でも、誘われたとはいえ、OKして、わざわざ山下公園まで連れてったんだから、飛鳥馬さんも気が無いわけじゃ無かったんでしょ?」
「ま、そりゃそうだけど。一応バイト先だし、ワンチャン狙いなんかより、普通に付き合えるようにするのが王道でしょ。」
「うわー、飛鳥馬さんからワンチャンなんて言葉聞くとは思わなかったわー。一応健全な男の子だったんですねー。」
「あのね、私は普通、平均、アベレージ。今どきの男性の標準モデルですって。柏木さんの捕食対象にならないってだけだから。まったくもう。」




