第82話 九州、うまみの舞
軍司令部を出て、井上さんのジープに乗り込む。
「まずは最初に官舎棟へ向かいますね。」
同じ自衛隊の基地とは言っても、北海道のような広大な土地ではないので、かなり普通の郊外のような、建物が点在している景色なんだな。かつ、車で5分とかからずに宿舎棟へ着いた。
井上さんに続いて宿舎内へ入る。
「入口脇のこちらが食堂です。朝食と夕食はこちらで、昼食は管理棟の食堂をご利用いただく予定です。」
食堂の横を通り通路を奥へ進む。
「こちらが柏木さんのお部屋です。飛鳥馬さん、下田さんは2階のお部屋になりますので、ご案内しますね。あ、荷物を置かれましたら、皆さん玄関に集合、ということでよろしいですか? この後管理棟の食堂へ行って昼食をとって、その後に皆さんが使われる訓練室へご案内しますので。」
「はい、玄関集合ですね、了解です。」
柏木さんが部屋に入っていった。
飛鳥馬さんとオレは井上さんに続いて、階段を上る。
「こちらが飛鳥馬さんのお部屋です。下田さんは、もう少し先になりますね。」
さらに3部屋進んだところにオレの部屋があった。
「こちらが下田さんのお部屋になります。では、私は先に玄関に降りてます。」
建物は外観と同じく、質実剛健と言えば良いのか、昭和の香りが楽しめると言えば良いのか、まぁ当然ながらお台場の最新ビルの高層階の部屋とは比較にならないので、最初からあきらめてはいたが、想像よりも少し上を行くレトロ感だ。
まぁ、一週間だし、寝るだけだしね。
鞄から荷物を出して、軽く部屋を見た所で玄関へ向かった。
ジープは群司令部の建物の奥の建物で止まった。
「こちらが管理棟で、昼食はここの食堂になります。あ、初日の食事は私もご一緒ささせて頂きますね。」
井上さんに続いて食堂に入る。北海道の基地と同じ、独特の熱気が渦巻いている。
北海道で大分慣れたはずだったんだけど、プリズンでの一週間で、あのなんちゃってだけどこじゃれてて、ゆっくりした時間が流れてる食堂に感覚が戻ってしまったので、少し気おくれしてしまう。
プリズンでは日替わりランチのメニューを見て一喜一憂している柏木さんも、心なしか大人しく見えるのは、やはり熱気に押されてるんだろうか。
「あ、井上さん。どうぞ、こちらです。」
割烹着姿のスタッフに連れられて、食堂入口の左にある部屋に入った。
絨毯が敷かれた部屋の壁には大きな絵がかかっている。中央に大きな大理石のテーブルと木彫りの飾りが付いた椅子が12脚並んでいた。
部屋のドアが閉まると、外の喧騒がウソのように静かな空間になった。
「会食用の部屋です。こちらをお使いください。」
「え?こんな所、良いんですか?」
と、飛鳥馬さん。
「えぇ、古い建物なのでこんな部屋がありますが、今ではランチミーティングなんかわざわざ食堂のこんな部屋使わないで会議室で仕出し弁当頼んだり、基地の外行ったりするんで、誰もこの部屋使わないんですよ。それに、皆さん目立つんで、こちらとしても、ここ使ってもらった方が安心なんです。」
「では、お言葉に甘えて。失礼します。」
飛鳥馬さんが座って、一つ席を開けてオレが座った。テーブルの対面に柏木さんと井上さんが座る。
「なんか、こんな重厚な部屋で食事って落ち着かないよねー。」
「そうですよね。静かなんですけど逆にオレ、落ち着かないですよ。」
「流石歴史ある海軍基地って感じだよね。」
「実は、私もここで食事するなんて初めてなんですよね。」
井上さんが照れ臭そうに笑った。
「お待たせしました。」
割烹着のスタッフがカートを押して入って来る。
「チキン南蛮と温野菜、ハーフ皿うどん、がめ煮とさつま汁です。デザートにカステラをご用意しました。あと、明太子と高菜漬けはこちらに置いておきますのでご自由にお取りください。」
これは、見事な位に九州名物が揃ってるぞ。
「うわー、九州グルメが詰まってますねー。嬉しい。」
「これは良いね。」
柏木さんと飛鳥馬さんも喜んでるようだね。
まずは熱々ごはんに辛子明太子でしょ。パクっと。おー、これは美味い。高菜漬けも加えて、うん、最高だよ、九州。
続いてチキン南蛮。熱々ジューシーでサックサク。これはご飯が止まらないよね。チキン南蛮、辛子明太子、高菜漬け、ご飯。もうこれだけで一生ループしてても良いんじゃね?って感じだよ。そこに、がめ煮。出汁しっかりの里いもが超名わき役って感じか?助演男優賞ものだよ。あ、男優なのか女優なのかはわからないけどね。
さ、お待たせしました、ザ、九州定番、皿うどん。カリカリの麺をパリパリパリって軽く押して、もやし、キャベツ、ニンジン、きくらげ、そして、エビ、イカ、豚肉がたっぷりのあんかけと一緒に、すこしカラシも付けてバクっとな。
くはぁ、これも絶品だよ。
飛鳥馬さんはじっくり味わっているのか、目を閉じて何か見えない物を見ているようにフリーズしている。
そして、柏木さんと言えば、久々に出たぞ、奥義、うまみの舞を舞っている。




