第76話 連戦後のランチ
ゲームが終わっても、オレは席から立ち上がれなかった。柏木さんも座り込んだままだが、飛鳥馬さんだけが立ち上がって、水野指令と話はじめた。
「今回はこれで終わりでしょうね。」
「そうだな。試されてるんだろうな。」
「私もそう思います。」
なぜこれで終わりって解るんだ?
「これで終わりなんですか?」
まだ立ち上がれなかったんで、身体だけ飛鳥馬さんと水野指令の方に向けて聞いてみた。
「うん、たぶんC国は、こちらの体制、対応力が試したかったんだろう。そして、最後のゲームでこちらが増員して対応出来ることがわかったんで、もう彼らの目的は果たせたんじゃないかって、私は思ってるんだ。」
「僕も同じ考えだ。こちらの対応状況を確認しているんだろうから、対応できることがわかったんで、撤退したんだろうな。」
「ちょうど今日の午後、太田部長と今回のチーム体制に関して話をする予定なので、今回の件も併せて協議したいと思います。」
「そうか、その打ち合わせ、僕も参加させてもらおう。後で太田1尉には連絡しておくよ。こういう事態が実際に起きるようになったんで、これは至急対策を検討する必要があるからね。」
「了解しました。では、打ち合わせは14時ですので、後程よろしくお願いします。」
3人が作戦室を出たのは12時少し前だった。
「いや、本当にお疲れ様だったね。今から研究室へ戻っても、直ぐに昼飯の時間になっちゃうんで、このまま食堂へ行っちゃおうか。」
「そうですね、わたし、ちょっと甘い物も食べたいんですよね。少しゆっくりもしたいですし。」
「オレも完全に集中力切れです、ちょっとボーっとしたいです。」
「そうだよね。ゆっくり食事して、しっかり休憩取らせてもらおうか。」
食堂の入口で、今日の日替わりランチのメニューボードを見る。オレ達がやられてたら、この平和な日常が守れないのか、と、ふと平和な日常のありがたさと、自分の仕事の重要さを感じてしまった。みんなはずっとこんな重圧に耐えて来てるんだよな、と前を歩いている飛鳥馬さんと柏木さんと見た。
「お、今日のAランチは担担麺と餃子とサラダと半炒飯か、私はこれだな。」
「チキンドリアとクリームコロッケ、サラダとスープ、うん、良いな。わたしはBランチ!」
えぇと、二人ともこの重圧は既に日常だから、もう気にもしてないってことかな・・。
重圧だとか、ストレスだ、と考えない方が良いんだろうな。そう、シンプルに目の前の物を楽しむ、と。そうね、オレもAランチが良いかな。
席に着くと3人とも麦茶を一気に飲み干した。
「やっぱり喉乾くよねー。」
「喉からからはキツイですよね。」
「うん。飲み物とかの休憩問題も今日相談してみるよ。」
「はい、お待たせしました、Aランチのお客さんは?」
「はい、オレとこちらです。」
オレと飛鳥馬さんを指さした。
「はいどうぞ。では、Bランチはこちらですね、どうぞ。」
うーん、担担麵の肉みその香りが食欲をそそるな。
ズルズルズルズー。うん、ゴマも濃厚で美味いや、これ。
食事が美味しいって、これが一番いいことだって誰かが言ってたけど、ほんと、そうかもな。
食後、予告通り柏木さんはシフォンケーキのセットを頼みに行った。
オレと飛鳥馬さんは熱いお茶を貰って、ボーっとしている。
幸せそうにシフォンケーキを食べていた柏木さんが急にオレの顔を見つめた。
「あれ? そういえば、下田くん、今日はピラフセット食べるって言ってなかった?」
「あ! そうでした。完璧に忘れてました。」
「それは、ピラフの神様がお怒りになるよ。」
「また、飛鳥馬さんの適当なコメントでましたねー。」
「明日はピラフセット食べますよ。思い出したら炒飯との違いがまた気になって来たんで、食べてみないと。」
「ピラフの方が油が少ないきがするんだよね。あと、米に味が染み込んでる感じ? 炒飯は油と卵だよね。私の中ではパンチがあるのは炒飯、優しい風味なのがピラフって分類されるよ。」
「なるほど、味付けてから炊いてるからですよね。あー、失敗したな、ピラフ食べれば良かったな。」
しばらく雑談していたが、飛鳥馬さんが食後のコーヒーが飲みたいって言うので、3人で研究室へもどった。
飛鳥馬さんがコーヒーメーカーの前で豆を選んでいる。
「ちょっと気分転換に苦みとコクがあるやつを飲もうかな。」
コポコポコポ・・。
今朝とは違う、コーヒーの強い香りが研究室に広がっていく。
「できたよ。」
飛鳥馬さんが3人のマグカップにコーヒーを注いてくれた。
うーん、スモーキーな香りだな。では早速いただきます。
「すごくコクがあって、フルーティーな甘さもあるんですね。」
「これ、気分転換にはぴったりねー。」
「うん、これも当たりだな。」
コーヒーを楽しんだ後は、朝の続きをしようと、ハンコントレーニングを再開した。
「じゃ、打ち合わせ行ってくるね。」
「行ってらしゃい。」
「はーい、行ってらっしゃい。」
飛鳥馬さんが研究室を出て行った。




