第69話 いつものランチ
「おはようございます」
研究室に入ると、コーヒーの良い香りがするぞ。
「おはよう。」
「おっはよー。」
飛鳥馬さんと柏木さんがコーヒーメーカーの前に居た。
「あ、今日から毎日違うコーヒーでしたよね?」
「そうそう、今日はね、グアテマラコーヒーを淹れてみてるんだよ。」
「もう、お花みたいな香りがしてるのよ。これは楽しみだわー。」
確かに、花のような香りがしてる。
「さ、飲んでみようよ。」
飛鳥馬さんが、柏木さんとオレのカップにコーヒーを入れてくれた。
一口飲んでみる。うーん、酸味もあるけどコクもある。そして甘い香りが心地いいぞ。ん?後味は甘く感じるな。結構印象的なコーヒーだな。
「これは個性的というか、インパクトありますね。」
「そうだね。面白いね、これ。」
「うん、わたしはこれも好きー。あ、後味が甘いんだ、うわぁ、面白いわー。」
コーヒーカップを見ていたら、ふと我に返った。
姉さん、事件です。オレ、職場の仲間と朝からコーヒー談義してるんですよ。それも、毎日世界中の豆を飲み比べようとか、言っちゃって。インスタントコーヒーを薄めて、ミルクと砂糖たっぷりで飲んでたオレがですよ?人間って環境が変わると、変わるものなんですね。そうか、この幸せな世界線を、オレが守らないとな。と、ちょっと責任感を感じつつ、ボタン連打測定器で連打のトレーニングを始めた。
そろそろランチタイムという時間、無意識のうちに、3人は目を合わせた。
「そろそろですね。」
「今日も来るのかな?」
「3日連続は勘弁してほしいなー。」
3人が時計の秒針を見守る中、秒針は12時を過ぎた。
「あ、今日は来ないんですかね?」
「12時過ぎたねー。」
「念のため、あと1分だけ待って、ランチに行こうか。食事中に呼び出しされるのは嫌だしね。」
3人は、また時計の秒針をじっと見続ける体制にはいった。
こうして見ていると1分って案外長いんだよな。でも、あと15秒、10秒、5秒、
針は1周した。
「うん、今日は来ないようだね。ご飯にしようか。」
飛鳥馬さんに続いて、皆で食堂に向かう。
食堂の入口で、今日の日替わりランチのメニューボードを見る。なんだか久しぶりに見る気がするな。あ、そうか先週は北海道に居て、月曜、火曜はランチタイムに来られなかったんで、日替わりメニューのボードを見られなかったからだね。
食券売場に並んだ。
「わたしはA ランチください!」
「ピラフセットお願いします。」
今日の日替わりAセットは、天津丼、シュウマイ、サラダ、ワカメスープ、中華セットってことだね。で、Bセットはとんかつ、揚げシューマイ、サラダ、ワカメスープ。こちらは揚げ物セットだな。どうしようかな、でも、どっちもちょっと今日の気分じゃないんだな。よし、じゃ、久々なんで、ド定番で行くかな。
「オレは。。半ちゃんラーメン餃子セットで。」
今日は窓際の席に座ったので、外をぼーっと眺めている。あぁ、今日は雨降ってるんだな。 プリズン暮らしなんで、天気の感覚も無くなってきちゃってるよ。
「雨降ってますね。」
「ほんとだー。もう何年も傘持って外出てないんで、雨の感覚忘れそうだわー。」
「そうだね。天気の感覚が無くなってきてるね。私の場合、季節の感覚も無くなってきてるけどね。」
季節の感覚ってなんだろう?聞いてみよう。
「季節の感覚、ですか?」
「うん、特にさ、衣替えみたいなのしないからさ。いつも仕事着は白衣だし、その下は、常にTシャツだし。私は休みの日は、このTシャツで過ごしてるから、一年中ずっと、同じ格好なんだよね。白衣があるかないか、だけ。」
「なるほど、オレも休みの日は、白衣脱いだだけの恰好ですね、確かに。」
「えー。休みの日はおしゃれしましょーよー。」
「でもさ、着替えてどこ行くのよ?」
「え?。。ほら、あの・・コンビニ、とか?」
「アハハハ。」
「違うんですよ、気持ちの問題だから、今日は休みだなーって。いや、そうですよ、オン、オフをはっきりさせるためですよ! 大体年中同じ格好って、これだから男子はダメなんですよ、もー。」
「今日もダメ出しされちゃったよ。」
飛鳥馬さんと目を合わせて笑った。
「はい、お待たせしました。日替わりAのお客さんは?」
「あ、わたしでーす。」
「ピラフセットのお客様。」
「私です。」
「はい、半ちゃん餃子、ごゆっくりどうぞ。」
いただきます。
「うんうん、天津丼、熱あつでおいしいわー。わたし、このフワフワした玉子系結構好きなんですよね、特に、このカニが入ってるヤツはお気に入り。」
「オレはこの、海の家とかで出てくるような、何の変哲もない醤油ラーメンがたまに無性にたべたくなるんですけど、そんなこと無いですか?」
「あー、わかるー。ラーメン専門店のしっかりラーメンじゃないラーメンね。なんかほっとするんだよね。」
「うん、そういう癖の無いラーメンは、飲んだ帰りに〆で食べるのに最高なんだよね。」
お、久々に酒豪族の発言を聞いたな。




