第59話 さよなら、でっかいどう。
「おまたせしましたー。梅もずくそうめんです。」
スタッフが梅もずくそうめんを持ってきてくれた。
ちょっと味の想像が出来ないんで、まずは食べてみよう。ずるずるっ。
うわ、梅がさわやかで、もずくの軽い感じの酢と合ってるぞ。そして麺がそうめんなんで、味の主張がないから、見事にさっぱりした麺料理になってるね。
「これは、絶妙ですね。オレ、プリズン帰ったら作ってみよう。」
「うん、これはいいわね。わたしもやってみよう。簡単そうだしね。」
「さっぱりしてて良いね。〆に最高だよ。」
酒豪族にも好評なようだ。
その後も、なぜか集中的にオレがいじられまくっているうちに、隊員クラブの閉店の時間を迎えた。
橋田さんは歩いて宿舎に戻るらしく、こちらに大きく手を振りながら、一人で歩いて帰って行く。
オレ達は、ピックアップに来てくれた同じスタッフが、同じ白いバンで宿舎まで送ってくれた。
最終日、土曜日の朝。食堂へ行くと、やはり柏木さんが朝食中だ。
「おはようございます。今朝も早いですね。」
「おはよー。昨日は〆がそうめんだったからお腹空いちゃって。」
ん?もう、この光景はデジャブだな。
「それって、何か食べても食べなくてもお腹空くってことじゃないですか?」
「よく食べて、よく寝る。これが健康の秘訣じゃないの。喰う、寝る、遊ぶ、でしょ。」
「おはよう。今朝も二人は朝から仲が良いねぇ。」
飛鳥馬さんが食堂に入って来た。
「違います!」
「違います!」
あ、今朝は完璧にシンクロしてしまった。。もう今夜ヤシマ作戦だとしても大丈夫なレベルだよ、これ。
「おはようございます。今朝は、わかめととろろ昆布のうどん、お稲荷さん、根菜の煮物とリンゴジュースです。ごゆっくりどうぞ。」
いつものスタッフが朝食を運んできてくれた。
「これはお腹に優しそうだね。昨日は大分飲んだからこれは嬉しいね。」
早速飛鳥馬さんがうどんの汁に口をつける。
オレは飲んでないけど、朝、温かい汁物はお腹があったまって気持ちが良いな。
出汁が効いた汁にとろろ昆布で更に深みがアップ、そこにダメ押しでワカメの香りが追加されて、フルコンボなうどんだよ。
お稲荷さんもほんのり甘くてほっこりする、なるほど、北海道シリーズの最後の食事は、飛び道具無しで、通常食材でのガチ実力勝負ってことなのか。もはや、この献立考えた人は神に違いない。
朝食が終わっても、3人とも魂の抜け殻のようにボーっと席に座っていた。それほど、このほっこり朝食にやられてしまってるんだろう。
「本当に美味しいものばかりだったよね。ごちそうさまでした。さ、出発準備しようか。10時玄集合だったよね。」
飛鳥馬さんが重い腰を上げて立ち上がった。
部屋に戻ると、まずは荷造りをしてから、掃除をしてシーツ類をまとめてドアの脇に置いた。うん、そろそろ時間だな。
玄関へ出ると、橋田さんのジープが待っていた。
「下田さん、おはようございます。」
「おはようございます橋田さん。」
「おはよー、橋田さん!」
直ぐに柏木さんも出てきた。
早速、定位置である助手席に乗り込んでる。
最後に飛鳥馬さんが出てきた。
「おはようございます。お世話になります。」
ジープは飛行場へ向かって走る。柏木さんと橋田さん何かを指さしながら女子会トークが再開しているようだ。飛鳥馬さんは空を見上げている。オレもなんとなく雲を見ていた。やっぱり東京の空よりも澄んでいると思うんだよな。
ジープは空港施設に入り、格納庫の前に駐機されている機能エンジン試験を見学させれもらった、多用途支援機のU4の脇で止まった。
格納庫から長友整備班長が出てきた。
「おはようございます。今回はトレーニング派遣ということで、ご苦労様でした。生憎、基地司令は東京市谷へ行っておりますので、ご挨拶できませんが、皆さんによろしくお伝えください、とのことでした。」
「こちらこそ、お役に立てたのなら光栄です。また、皆さんの歓待とご親切に感謝します。お世話になりました。」
飛鳥馬さんが答える。
「この後ですが、昨日ご説明した通り、横田までは、このU4、そこからは横田のヘリで研究所まで移動となります。道中お気をつけて。」
「本当に楽しかったです。また来て下さいね。」
整備班長と橋田さんが搭乗タラップ脇へ移動しながら言った。
「お世話になりました。」
飛鳥馬さんの敬礼に続いて、柏木さん、オレも敬礼をし、U4に乗り込んだ。
機内はマイクロバスみたいに小さいんだな。旅客機は乗ったことあるけど、こんなプライベート機みたいなのは乗るの初めてなんで、ちょっとワクワクしちゃう。
「どこかの大富豪か、大会社の社長になったみたいだよね。」
あ、柏木さんも同じ感想なんだな。
機体のドアが閉まる。
整備班長とジープが少し機体から離れたあと、エンジンがスタートした。
昨日は外でこの音を聞いて、身体が痺れたけど、中に居ると、そこまでの音はしなんだな。
機体がゆっくりと動き出す。
整備班長と橋田さんが大きく手を振っている。
さよなら、でっかいどう。




