第56話 ねるとん?
「失礼しまーす。」
これはスタッフだね。
「軟骨からあげとザンギ、おまたせしましたー。」
「あ、ザンギだ。誰が頼んだんですか?」
「オレです。美味いですよねこれ。」
「そーなんですよ。これを唐揚と一緒だと思う本州の人達の感覚が理解できないですよね。下田さんはしっかり違いがわかってるんですね。これはもう北海道に住むべですよ。」
やべぇ、オレも味の濃い唐揚だと思ってるけど、今それ言ったら命が危ないかも。
一応、柏木さんの反応を見て見よう。あ、露骨に目線を逸らした。この人、結構飲んでるけど絶対まだ酔ってないから、この話題避けたな。よし、話変えないと。北海道の人の変なツボに刺さらない話題は、と。
「オレ、ザンギも好きなんですけど、ジンギスカンも好きなんですよ。」
「ジンギスカンも良いですよね。で、どっちが好きですか?漬け込み系?タレ後付け系?」
えぇっ、ジンギスカンにもツボがあったんだ、やばいな、オレ、橋田さんの正解がわからないよ。
柏木さんに目でSOSを送ってみたが、やはり目線を逸らされてしまった。
でも、やはり柏木さんは頼れる先輩だ。助け船を出してくれたのだ。
「いやー、ジンギスカンのポイントは玉ねぎでしょ。肉でも、キャベツでもなく玉ねぎ。これが美味しいジンギスカンこそがジンギスカンでしょ。」
玉ねぎ?そうなの?なんか、橋田さん、目を見開いちゃってるよ・・。
「そう!玉ねぎ!ジンギスカンは玉ねぎに始まって玉ねぎに終わる。あの大きな玉ねぎの下で、ですよ。ラムの脂とジンギスカンのタレが染み込んだ玉ねぎ、これこそ世界の救世主、わが人生に一片の悔いなし、なんですよ。」
あれ?橋田さん、酔っぱらって壊れてるよね。
「そうなのよ。ギレン総帥も、立てよ!玉ねぎよ!って言ってたもんね。ね、下田くん?」
えぇー、柏木さんのフォロー、めっちゃ雑だなぁ、もうオレに振るの?えぇい、もうやけくそだ。
「そうですよ。玉ねぎはホワイトベースのおふくろさんなんですよ。で、逃げちゃだめなんです。逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ。あんた、玉ねぎー?ですから。」
やばい、オレ一滴も飲んでないのにメタメタだ・・。
あれ?流石にこれはめちゃめちゃ過ぎたのか、橋田さんが首を傾げている。
「玉ねぎ? そうかな。ジンギスカンはラムですよ?ん?ラム?、ラムちゃんだっちゃー!」
あ、ダメだこりゃ。橋田さん、普通に酔っ払いだ。
「あれれ?橋田さん、飲んでると思ったらもう正体無くなっちゃってますか?」
飛鳥馬さんと酒談義していた店長がこちらに参戦してきた。
「橋田さん、大丈夫なんですかね?」
オレも流石にちょっと心配になったので聞いてみた。
「あ、大丈夫です。この人、飲むとこんな感じなんですよ。でも、全然普通に面白い訳ワカメキャラになるだけなんで、面白いですよ。」
え?これが面白い?ちょっち怖いんだけどな。
「壊れた連想ゲームみないになるんですよね。そうですね、こんな感じです。」
そういうと、店長は橋田さんに向かって話はじめた。
「橋田さん、ラムちゃんは高橋るみお先生でしょ。高橋るみお先生と言えば、めぞん一角獣でしょ。」
「そうそう。管理人さんね、ゴダイゴ君みたいな年下は可愛いんですよ。」
連想ゲームっていうか、簡単に誘導されちゃう人だよね。
あれ?今なぜか柏木さんの目が一瞬輝いたぞ。これは余計な事しか起きない予感がする。
「年下可愛いよねー。ほら、管理人の響子さん、なかなか素直にならなかったよねー。でも橋田さんは素直だってみんな知ってるよー。」
「そうですよ。素直が一番。私はちゃんと言えますよ。下田くん可愛い―!」
はぁ!?
「そうだよねー。で、それ、ねるとんではなんて言うんだっけ?」
柏木さんが大盛り上がり。ねるとんって、ねるとん紅くらげ団って昔のテレビ番組だよね?
橋田さんがオレの方を向いた。
「下田くんに決めました!よろしくお願いします!」
オレと橋田さん以外、大爆笑。
その瞬間、橋田さんは急に我に返ったようで、両手を口にあてた。
「いいねー、橋田さん、恋する乙女の顔だったよー。」
柏木さんが橋田さんの肩をパンパン叩いてる。
「えー?私なにか言いましたか?えー?えー?」
「いやーー、ちょっと待ったぁぁぁぁー!」
突如店長が立ち上がった。
「おーっと、ここで店長のちょっと待ったが入ったー!」
MC柏木。
店長は手に持ったおしぼりを橋田さんに向けた。
「橋田さん!最初っから決めてました!よろしくお願いします!」
「おー、店長、橋田さんに行ったー!」
MC柏木。
「え?えー。ありがとうございます、でも、ごめんなさい。」
橋田さんも立ち上がって、ごめんなさいをした。皆ノリが良いね。
「うわー、残念、ごめんなさいだー。店長、ちょっと待った玉砕!」
MC柏木も絶好調。
「いい夢見させてもらったよ! あばよ!」
店長が背中を向けた。店長も役者だなー。
もう全員笑いが止まらない。




