第53話 バイトした?
「だからね、こういう機会には、家で作らないような物を食べたいんだよねー。手が込んだものとか、揚げ物とか?部屋で揚げ物すると部屋中油臭くなるし、後片付け大変だからねー。そうだ、なんか食べよーっと。下田くん、そこのメニュー取ってくれる?」
「あ、はい。」
「私は、和食系が食べときたいかな。食堂って和食系少ないからさ。」
飛鳥馬さんと柏木さんで、あーだこーだ言いながらメニューを見ている。
「決めたー。わたし、海藻サラダと軟骨からあげ。 たぶんプリズンの食堂もそうなんだけど、店のサラダってカット野菜使ってるでしょ、でも、ここの野菜は地物だから、新鮮でおいしいのよ。海藻も乾燥ものを戻したんじゃなくて、たぶん生のまま使ってるでしょ、ここじゃないと食べられないもんね。軟骨からあげは部屋で作ったら何日も匂いが取れなくなりそうで、絶対外で食べるものよ。」
「そういえばそうだね、私がバイトしてた居酒屋でもカット野菜だったな。でもあれ、簡単なんだよ。袋開けて、バスケットに入れてジャーっと水洗いしておしまいだからね。カット野菜に限らず、チェーン店の居酒屋なんかセントラルキッチンで仕込み済の料理を温めたり、揚げたりするだけだから、料理するっていうより工場の組み立て工程みたいだったけどね。」
「そういえば、飛鳥馬さんも柏木さんも居酒屋でバイトしてたって言ってましたよね?他にはなんかバイトしたりしたんですか?」
「うーん、わたしは居酒屋のバイトしたけど、結構すぐ辞めちゃったんだ。女子大生が酔っ払いの中で仕事するのが嫌になっちゃってねー。酔っ払いって面倒でしょ。」
うん、あなたがそれを言いますか。ま、ウチの酒豪族は楽しい酔っ払いなんで良いんだけど。
「一番長かったのはスターバックレかな。」
「スタバですか。じゃ、コーヒー淹れるのとか得意なんですね?」
「あ、レジだったからドリンクはやったこと無いよ。ほら、レジは接客の最前線だから、店で一番かわいい子が担当しないといけないから、わたしにはレジ以外の選択肢は無かったのよ。」
「・・・」
「下田くん?そこは、そうですよね。って相槌するとこでしょ!」
「はい、そーですね。」
「なんで棒読みなのー!ちょっとー、飛鳥馬さーん。うちのルーキーが素直じゃ無いんですけどー。」
「ん?私は生ガキ食べようかな。」
「はぁ?話聞いてました?」
「大粒って書いてあるんだよ。レモン絞って食べたいよね。」
「いや、カキの話じゃなくて。あ、でも、大粒?良いですねー。わたしにも一個くださいねー。」
食べ物は正義なんだな。
オレも何か頼もうっと。そうだよね、プリズンで食べられないものが良いよね。
あ、そういえば、ザンギってもう一回食べときたかったんだよな。唐揚との違いはわからないままだけど、濃い味の唐揚げとして美味しいと思うしね。
引き戸を開けて注文をお願いした。
「ハイ、お待たせしました。ご注文ですね?」
「えぇと、海藻サラダと軟骨からあげ、あと、生ガキ。それとザンギお願いします。」
「わたし、生ビールもお願いしまーす。」
「ハイ、よろこんでー。」
「で、わたしはスタバのマドンナだったんだけど、下田くんは何かバイトしてたの?」
「いえ、何もしたこと無いんですよ。今思えば、何かやっとけば良かったなって思ってます。もう今からじゃ無理ですもんね。」
「無理っていうか、君は東中大院卒で研究職の国家公務員だよ、バイトで生計立てる必要ないよね。ってか、国家公務員は副業禁止だしね。」
「いや、確かに仕事してるっていえばそうなんですけど、やっぱり実感わかないですよ。」
「まぁ、気持ちはわかるけど、サラリーマンなんて本質は今と同じだよ。理不尽だろうが、理想と違ってようが、そのフィールドで戦うってことしかないんだからね。私は今の方が、少なくとも世の中の役に立ってることを感じられるんで好きかもしれないかな。」
「わたしもそうかな。必要とされてる感があるのよね。生きがいっていうと大袈裟かもしれないけど、それが毎日の練習のモチベよね。って、あ、仕事の話しちゃった。ダメよ、飲みの席では仕事の話禁止!」
柏木さんが自分で自分の額にデコピンした。
「下田くんはバイト経験無し、と。で、飛鳥馬さんは?居酒屋の調理補助だけですか?」
「うーん、高校生の時には、高校生バイトの定番、マクドナルドルでハンバーガー作ってたよ。でも授業があったから、週2回位しかシフト入らなかったけどね。」
「へぇ、飛鳥馬さん、高校生の時、マックだったんですか。わたしはドレミピザでした。わたしも週2位しかシフト入らなかったですね。」
「ドレミピザって、ピザ作ってたの?デリバリーじゃないよね?」
「レジですよ。ドレミピザ区役所通り店のアイドルですよ、わたし。」
「アイドルねぇ。でも、私もマックでは、自分で言うとなんだけど、結構モテたんだよ。うちの店、バイトは高校生とパートおばちゃんだけで、大学生が居なかったんだよね。で、ほら私、大学付属の高校だったから、自動的に大学生になるって思われてて、高校生なんだけど、なぜか大学生枠扱いされてて、一歩お兄さん的な感じだったんだよね。」




