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第51話 始まりの石狩鍋

 前回と同じ個室の引き戸を開く。

「お、鍋だ。」

「うわー。」


テーブルの上に置かれたカセットコンロには、てんこ盛りの野菜と魚介類が入った大きな土鍋がセットされていた。


「失礼します。」

引き戸が開いて、いつもの食堂のスタッフが大きなトレーを持って入って来た。


あ、食堂と隊員クラブのコラボってこういうことか。なるほど。


「みなさん、今日もお疲れ様でした。これが今回出張での最後の夕食とのことで、石狩鍋を準備しました。食堂だったら調理済の鍋を器によそってご提供する予定だったんですけど、急遽隊員クラブが場所と機材を提供してくれることになったので、みなさんで温かい鍋をつっついてもらえることになりました。昆布、鮭、貝類、野菜、豆腐、そして味噌、全部北海道産です。そして、ニシンの照焼、いつもの松前漬けとお新香です。デザートはミカンシャーベットですが、これはキッチンに預けてあるので、最後に出してもらうことになってます。では、火をつけますね。さ、最後の夕食、北海道の味をご堪能下さい。」


「これは美味そうです。ありがとうございます。」

「そういえば、プリズンで皆で鍋なんて食べないですよねー。鍋久しぶりー。」


「失礼しまーす。」

今度はさっき送迎してくれたスタッフが入って来た。

「お飲み物はどうしましょうか? もちろん、お茶とお水、あと冷たい麦茶もありますよ。」


「生ビール下さい!」

「わたしも生お願いします!」

これもまた、質問する意味がない位わかり切った回答だよね。

オレはどうしようかな。温かい鍋だから、冷たい麦茶が良いかな。

「オレは冷たい麦茶下さい。」


「生2、麦茶1、よろこんでー。」


スタッフが生ビール2つと麦茶の入ったピッチャーを持ってきた。

「じゃ、今回の訓練出張の全訓練日程が無事終了しました。ほんと、お疲れ様でした!」

「でも、明日プリズンに帰るまでが遠足だからね、下田くん。」

「はぁ?なんでオレだけ子供扱いなんですかー。」

「いいじゃない、ウチの若手ルーキーナンバーワンなんだから、ね、飛鳥馬さん。」

「そうそう。訓練とルーキーに乾杯だ、はい、かんぱーい!」


「かんぱーい。」

「かんぱーい。お疲れ様でした!」


2人のゴクゴクという音が静かな部屋に響いている。


酒豪族コンビがほぼ同時に、半分以上空けちゃったジョッキを、ドンとテーブルにおろした。


「ぷはー。やっぱ人生、この時のために生きているようなもんよねー。」

はい、柏木さん、鉄板セリフ頂きました。

「ふーっ。やっぱりビールは正義だ・・。」

お、新しいパターンがでましたな、飛鳥馬さん。


「失礼しまーす!」

春日店長だ。手には一升瓶を持ってるぞ。


「お疲れ様です。今日は急に連絡しちゃってすみませんでした。でも、今日はこれが手に入ったんで是非ご連絡しないと、と思って。これ、『標茶大雪』、飲みたければ標茶町へ、っていうコンセプトで、酒蔵での直売、それも手渡し限定で、発送もしてないんですよね。標茶町行くのは札幌からでも半日かかるんで、幻の地酒って呼ばれてるんですよ。」


「それ下さい!」

「わたしもー。」


「ハイ、よろこんでー。ってか、もうグラス持ってきちゃってます あはは。」


店長は2人の前に小皿を置いて、その上にグラスを置く。

「はい、行きますよ。ととととと・・・」

グラスの酒が表面張力で大きく盛り上がる。そしてはじけて下の皿にこぼれる。


注ぎ終わるとすぐ飛鳥馬さんが、グラスを持たずに顔を近づけて、グラスに口をつけてすするように酒を飲んだ。

「うわぁ。芳醇な香りが口の中でパッと広がりますね。ものすごくスッキリ、キリっとしてる。」


「ととととと・・・」

柏木さんのグラスにも酒が注がれた。こちらも、直ぐに酒をすすった。

「んー。ほんと、香りが凄い!鼻孔に香りが残る感じー。」


「いやぁ、気に入って貰えたようでよかったです。今、突き出し代わりのツマミセットも来ますね。」


飛鳥馬さんは左手にコップを持って、松前漬けに箸を伸ばしている。

完全に戦闘態勢に入ったようだ。


スタッフがトレーを持って入ってきて、店長に渡した。

「はい、お待たせしました。今日のおすすめツマミ盛合わせは、北海道の珍味を取り揃えておきました。まずジビエ、これはエゾシカのロースト。こっちが熊の味噌煮込み。そしてもちろん魚貝、ホタテのイクラのせ、ホタルイカの一夜干し。それと、アスパラのマリネ。どれもオススメですよ。」


「エゾシカと熊ですか、初めてです。楽しみですね。」

「実は、ジビエって、意外と日本酒ともあうんです。後でまた飲み比べセットもどうですか?」

「いや、後でじゃなくて、今下さい、飲み比べセット。」

「あはは。はい、よろこんでー。」

「わたしはもう一杯生ビールが飲みたいかな。お願いしますー。」

「はい、生1、よろこんでー。」

スタートダッシュというか、最初の一歩から全力投球だよね、この人達。特に飛鳥馬さんは酒を前にしたら絶対にぶれないんだよな。


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