第50話 今夜の予定は
リリリリリン、リリリリリン
橋田さんのスマホが鳴ってるのかな?
「すみません、電話取るので、ちょっと車止めますね。」
そう言うとジープが路肩に止まった。
「ハイ、橋田です。あら、店長。えぇ、えぇ、そうですね。一応予定は非公開なので、えぇ、でも、たぶんそうだと思いますよ。え?あら、ちょっと待って下さいね。」
橋田さんがスマホを耳から離してオレ達の方を向いた。
「あの、この電話、隊員クラブの春日店長からなんですけど、えぇと、皆さんの予定は非公開なんですけど、噂で明日東京へ戻るっていうのを聞いたそうで、珍しい地酒を手に入れておいたのと、個室も空いてるんで店に来ませんか、っていうことです。」
あ、橋田さん、それは質問になってないですよ。飛鳥馬さんに珍しい地酒って言ったら、返事は120%既に分かってますよね。
「え?珍しい地酒が手に入った?行きますよ、もちろん。」
「わたしも行くー。」
ほらやっぱり。ま、オレも特にやることも無いし、北海道の美味いものが楽しめるんから行こうかな。
「オレも行きます。」
「そうですか。わかりました、伝えますね。」
またスマホで話を始めた。
「皆さん行くそうです。え? へぇ、そうなんですか、なるほど。はい、ちょっと待って下さいね。」
またスマホを離してオレ達の方を向く。
「今日の夕食なんですが、食堂では一人鍋を用意しているそうなんですけど、それを食堂じゃなく、隊員クラブに持ってきて飲みながら食べませんか、って提案されてます。」
「食堂がそれで問題ないなら、私はそれで良いです。皆は?」
「わたしはオーケーです。」
「オレも別に何も問題無いですよ。」
「はい、わかりました。」
橋田さんはまたスマホで話を始めた。
「はい、大丈夫だそうです。はい、あ、そうですか。はい、わかりました。そうですね、いえ、大丈夫ですよ。はい、わかりました。ではのちほど。」
橋田さんがスマホでの話を終えた。
「では、一旦宿舎に戻りますが、夕食は隊員クラブに場所が変わりましたので、夕食の前に隊員クラブのスタッフが宿舎まで迎えに来るそうです。」
宿舎に着いた。
「先ほどの話の通り、夕食は隊員クラブですので、夕食時間の前になったら迎えが来ますのでそれをお待ち下さいね。では、お疲れ様でした。」
橋田さんが手を振って、ジープで帰って行った。
「じゃ、後で玄関集合ね。」
「はーい。」
「了解です」
オレは大浴場の湯船で内ももを軽くマッサージしていると、飛鳥馬さんも同じように普段より長めに湯船に浸かていたので、たぶん、同じようにマッサージしてるんだろうな。
部屋に戻ったら、とりあえず芦田さんにメッセージを送る。今日は乗馬をして、ソロで乗れるようになったこと、そして、また今夜もみんなで宴会なことだね。飛行場見学は、場所の特定につながりかねないので、そこは言わない方が良いかな。
腹時計がそろそろ夕食であることを伝えてきた。あ、そうだった、今日は食堂じゃなくって隊員クラブで夕食だったっけ。では行きますか。
宿舎の玄関に出るとバッチリ内巻きにヘアセットした柏木さんと、既に目がキラッキラに輝いている飛鳥馬さんが立っていた。
向こうから自衛隊車両ではない白いバンがやってきて、玄関の前で止まった。
「お疲れ様です。隊員クラブです。お迎えに参りました!」
あ、このまえ見たスタッフの人だ。
「わざわざすみません。よろしくお願いします。」
飛鳥馬さんが助手席に乗り込んだのに続いて、柏木さんとオレも後部座席に乗り込んだ。
5分位走ると、怪しいクリスマスのライトみたいなピカピカ電球が見えて来た。まだ日が落ちてないので、夜ほどは目立たないが、やっぱり、この電飾センスは微妙だと思うな。
のれんをくぐって店内に入ると、まだ薄暗い店内で店長が仕込みをしていた。
「はい、いらっしゃい。お待ちしてました。この前と同じ、奥の個室でお願いしますねー。」
「こんばんは。あれ?まだ営業時間前でしたか?」
飛鳥馬さんが店長に話しかける。
「えぇ、うちは隊員クラブなんで、客は基地の中の人だけなんですよ。で、基本的に基内居住者は夕食は食堂で食べるんで、夕食の需要は無いんで、営業は夕食後からなんです。メニューもガッツリ食事系はほとんどなくって、ツマミがメインなんですよね。」
「なるほど、じゃ、今日はわざわざ私たちのために準備して頂いたんですか?」
「いやー、実は準備はしてないんです。食堂とコラボっていうか、まぁ、奥へどうぞ。」
「わたし、大学生の時居酒屋でバイトしたことあるんで、この、嵐の前の静けさみたいな店内の雰囲気、好きなんですよ。だって、この後あの喧騒になるんですよ。」
「私も居酒屋でバイトしたことあるよ。ホールじゃ無くって調理補助だったけどね。」
そうか、飛鳥馬さんも柏木さんも色んな体験してきてるんだな。オレもバイトとかしとけば良かったかな。こっちの世界じゃ、オレがバイトできる可能性なんでゼロだろうから、一生経験できないんだよな。




