第49話 優雅なひと時
パカパカパカパカ
ソロの飛鳥馬さんと、並んで歩いていると、少し軽やかな足音が聞こえてきた。
「はーい、飛鳥馬さーん、下田くーん!」
あ、柏木さんだ。もう軽い速足くらいで乗れてるんだな。
オレ達をさっと追い越して先に行ってしまった。
「柏木さん、凄いね、もう走れるんだね。」
「オレ、まだ手綱引っ張ってもらってるんですけどね。」
「あの人は動物好きだから、馬とも信頼関係みたいなのができるんだろうね。」
「正直、オレは、小さい動物以外は苦手です。」
飛鳥馬さんと雑談しながら馬でゆっくりと進む。うん、なかなか優雅な感じだな。
そう思ったら、ふと肩の力が抜けてリラックスしたようになった。
「あ、下田さん、今、馬を怖がらずに、馬に体をまかせましたね。そうです、そうです、その感じです。 馬はそれを感じ取るんです。」
橋田さんがヴィルゴの手綱を引きながら、首のあたりを軽く叩いた。
なるほど、オレが怖がってるから馬も怖いのか。
「うん、大丈夫そうですね。手綱を引っ張ってもらえますか? それで馬が止まります。」
手綱を引くと馬が止まった。
「では、足でお腹に合図を送ってみてください。蹴るというより、合図を送る感じです。」
足で軽くお腹を蹴ると馬がゆっくりと動き出した。
「止まるときはさっきと同じ、手綱を引く。動き出すのは軽くお腹に合図する。ハイ、大丈夫ですね。では、ソロで進んでみてください。」
お、遂にオレもソロで乗馬だ。なんだか急にヴィルゴが可愛く思えてきたな。
約1時間、オレと飛鳥馬さんは、乗馬で散歩を楽しんでいたが、柏木さんはギャロップ位まで走れるようになっていた。
管理室の方で橋田さんと沢田さんが大きく手を振っている。
そろそろ時間なんだな。オレはヴィルゴを管理室の方へ向けて歩き始めた。
橋田さんのところまで戻ると、もう飛鳥馬さんが馬から降りて、また沢田さんとの話に熱中していた。たぶん、酒談義アゲインなんだろうな。
「お疲れ様でした。降りるときは、まず、右足を鐙からはずして、左足とお腹で体を支えながら下半身を左側に回して、左足の鐙もはずして、するっと滑り降りる感じでおります。なるべくゆっくり滑り降りるのが着地時に足を痛めないコツです。」
なるほど、まず右足をフリーにして、ヴィルゴに這いつくばるようにしておいて、と。で、右足を左側にして、これで、左足もフリーにする、と。あとはゆっくり滑り降り、うわっ。結局ストンと地面におりて、いや、落ちてしまった。そのままバランスを崩して、芝生の上で尻もちをついた。
「あ、痛たたた。」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。ちょっと滑っちゃいました。あはは。」
立ち上がろうとするが、あれ?足が思うように動かないぞ?
「手を握ってください。」
橋田さんが差し出してくれた右手を掴んだ。
「引っ張りますよ、せーの!」
なんとか立ち上がれた。でも、足が、生まれたての小鹿みたいにガクガクしちゃって、立ってるのも厳しい感じだぞ。
「とりあえず、ここに座ってください。」
橋田さんが持ってきてくれた『沙汰丹』の箱に座った。
やばいな、足を捻挫か骨折でもしたんだろうか。
パカパカパカパカ
柏木さんとアリエスが帰って来た。
アリアスが止まると、柏木さんは、さっとアリエスから飛び降りた。オレの下りた時と全然違うじゃないか。オレ、相当恰好悪いな。
あれ?でも、飛び降りた後の柏木さんは、そこから一歩も動かない。
「い、いたい。だめだ、これ、動かない。股関節痛ーい。」
「初めて乗馬した人は大抵股関節痛くなりますよ。普段、こんな風に座ったり運動することないですからね。」
「そーかー。ちょっとガニ股っぽくなっちゃってるし。そういうことかー。」
あぁ、なるほど、そういうことなのか。オレもきっと股関節が痛いんだな。変だと思ったよ、足に痛みはないのに足がガクガクするんだもんね。
実は飛鳥馬さんも含めて、3人とも股関節が痛くて動けなかったことが判明し、休憩しようって、ことで30分位、芝生の上に座り込んで飛鳥馬さんは沢田さんと酒談義、柏木さんと橋田さんはアリエスと3人、いや2人と1頭?で、女子会トーク、オレは『沙汰丹』の箱に座って、ボーっと馬や雲なんかを眺めて過ごした。オレだけ一人でいたが、仲間外れとかではなく、オレ自身がボーっと過ごす時間が好きなんで、こんな自然の中でゆっくり過ごせるのは嬉しいんだよね。更に、たまにヴィルゴがオレの所へ寄ってきて、オレを小突いて来たりと、ちょっかいだして来たりするんで、オレの中では、オレが一番この優雅なひと時を楽しんでるんじゃないかと思ってる。
「さて、そろそろ戻りますか。」
橋田さんが立ち上がった。
「じゃあね、ありがとうね、アリエス。」
柏木さんも立ち上がってアリエスの首のあたりを撫でている。
3人順番に沢田さんと握手をして乗馬コースを出て、ジープに乗り込んだ。




