9話 螺旋ほどける
二人が乗った車は本部のある市街地を抜け、町のはずれへと向かっていく。
助手席に座るシウは、暖房の心地よさに負け、先程から小さな寝息を立てていた。
赤信号で停められた時、ディオは彼女の腕から落ちかけていた紙袋を取り、後部座席へと移す。
それでもすやすやと眠り続けるその横顔を少しの間見つめ、ディオは軽くため息を吐く。
「まさか、俺がパートナーとして指名されるとはな……」
信号が青に変わる。
ディオはハンドルを握り直すと、再び車を走らせた。
タイヤが道路の窪みを踏んだ際、車体が揺れる。
その際、彼の黒髪につけられたリングも揺れ、日光を反射して赤く煌めいた。
そのリングの色は、呪化の“赤い実”のような深く濃い赤色だった。
◇
二人の乗った車はしばらく走り続け、やがて、1つのトンネルに差し掛かかった。
そのトンネルをくぐり抜けると……目の前に、青い海が広がった。
車はそのまま海沿いの道を走っていく。海岸線が眼下に広がり、波が砂浜に寄せる様子が見えた。
「んん……海……?」
「起きたのか」
「うん……窓、開けていい?」
「ああ」
シウが窓を開けると、ひやりとした空気と共に、潮の香りが車内に舞い込んでくる。
「A班の社員寮は海の近くにあるんだ」
「ほわー……」
「最初は色々と気になるかも知れないな」
「ううん。それって、毎日海が見られるってことでしょ?」
「そうなるな」
遠くで煌めく水平線を見つめながら、シウが微笑んだ。
「それって、なんかステキだね」
「……そうか」
車は海岸線に沿って走り続ける。
少女の期待と不安の両方を抱えた緋色の瞳は、過ぎ去る青い海を見つめ続けていた。