79話 虹色の、純白な天使 Part.4
少女がその後どうなったか、彼は知ることはなかった。
逃げ出した先には、彼女に似た人間がいっぱい居て、
彼は何かに迫られるように、見つける度に彼女達を攫っては、虹色の白い羽根を与え続けた。
「きっとこの子なら」
「だめだった」
「あの子なら」
「……また、こわれちゃった」
積み上げた罪の数だけ人々の怒りを買っていき、ついに捕らえられた彼は、冷たい白銀の鎖に繋がれた。
暗い蔵の中に閉じ込められ、数えきれないほどの月日が流れた。
白銀の鎖が体を焼く不快な感触と、底知れない闇の記憶が、過去のすべてを塗りつぶしていった。
「――あれ。なぜぼくは、あんなことをしてたんだっけ……?」
もはや少女の顔も、彼女へ犯した罪も、記憶の霧の向こうに消え去っていた。
ただ、心の中心に空いた穴だけが、何かを埋めろと叫んでいて。
「(わからない。でも、さがさなきゃ、みつけなきゃ、手に、入れなきゃ……)」
暗い、暗い蔵の中。
死ねもしない彼は、ずっとその思いだけを身体に留めて生き続けた。
◇
――何十年、いや、何百年経ったのか。
久し振りと言う言葉では到底追いつかない程の年月が流れた後。
唐突に、天使は外へと出された。
しかし、自分で羽根を抜き続けた翼は、やがては勝手に羽根が抜け落ちてしまうようになり、厄災を振りまく存在として忌み嫌われていく。
それでも彼は、自身に空いた“何か”を埋めるために、街を飛び続けていた。
そうして、何度目かの冬が終わりかけた時。
彼は見つけたのだ。
街の中で一人だけ。
光を薄く纏い、キラキラと輝く不思議な少女を。
それは、混濁した記憶の中を突き抜けるような衝撃だった。
あれは大事にしよう。
絶対壊さないようにしよう。
大切に捕まえよう。
大切に捕まえて、ずっと大事にするんだ。
彼が少女に覚えたその感覚は、残酷な子供が「珍しい虫」を見つけた時の、無邪気で一方的な独占欲によく似ていた。
――その光が、かの『ディオ』からもたらされたものとも知らずに。
◇
天使が、ゆっくりと目を開ける。
うっすらと見ていた過去の記憶はまどろみの中へと溶けて消え、その脳裏には、あの少女の光しか残っていなかった。
「……きっと……きっとそうだ……きらきらしてて、やさしくて……」
中身の飛び出した薄汚いクッションを愛おしげに抱きしめ、天使は「ふふ」と、ひどく幸福そうに笑った。
「こんどは、ぼくをえらんでくれるよね……シウ」
見当違いな理想と、一方的な約束を少女に押しつけると、彼は再び幸せな夢の中へと沈んでいった。




