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73話 カタチとココロ Part.5

※ライトな描写ですが、大量の虫に追いかけられる表現があります。苦手な方はご注意ください。


 

「やっ、ヤダヤダ! なんかっ、いっぱいいる!」


 パニックを起こすシウを背に庇いつつ、ナスカが拳銃を構える。

 二人は、先ほどセイヤを襲ったムカデのような虫だけではなく、バッタや芋虫、甲虫のようなもの……大きさも種類も違う様々な虫達に迫られつつあった。

 どの虫も例外なく、黒い木の根で形作られた――呪化した姿をしていた。

 

「ナスカ! シウ!」

「セイヤさん!」


 セイヤとリカルドが、虫と二人の間に割り込む。

 虫達の中には、あの樹木の白い葉を咥えたままのものもおり、その姿を見てセイヤがハッと何かに気付く。


「……思い出した、あれはヤスデだ!」

「ヤスデ、ですか?」

「そうです、さっき俺が襲われたヤツ! ムカデに似てるけど、葉っぱを食べる虫で……今ここにいるヤツ、みんなそう(葉食)です!」

「だから白い葉を咥えているんですね……もしかしてこの虫達は、あの樹木の呪化の葉を食べた虫って事ですかね?」

「かも知れないです。まさか、虫も呪化するなんて……!」


 小さめのバッタが飛び出す。

 リカルドが即座に斬り捨てたが、その死骸を踏み越えながら、次の虫がじわじわと近づいてくる。

 彼らは仲間を斬ったリカルドではなく、執拗にセイヤやシウを狙っているようだった。


「なっ、なにこれ!?」

「シウ!!」


 シウに飛びかかった黒いバッタを、駆け付けたディオがすかさず蹴り飛ばした。

 上体を持ち上げた芋虫のような呪化の頭部を、ナスカが撃ち抜く。

 それでも、黒い塊と化した虫達の群れが、じわじわと五人に迫ってくる。

 

「数が多すぎる……撤退しましょう! 僕が囮に――」

「いや! シウ、セイヤ! 先に行け!!」


 ディオの声で二人が走り出すと、虫たちは向きを変えて一斉にその後を追い始めた。

 残された三人には一切目もくれず、すぐ側を通り過ぎていくものさえも居た。


「ディオさん……!」


 傍らの虫を斬りつけながら、話が違う、と抗議しようとしたリカルドに、ディオが虫の群を指す。


「良く見ろ。あの虫は、セイヤとシウ()()を狙っている。お前が囮になっても意味はない」

「……!」

「死に急ぐな。二人を守りながら抜けるぞ!」


 二人に迫る虫たちを、ナスカが次々に撃ち抜く。

 後から合流しようとする虫達は、ディオの白銀の拳とリカルドの剣が粉砕していった。

 それでも勢いは収まらず、大群はなおも、ぎゅちぎゅちと木のこすれあうような不快な音を立てながらも迫ってくる。


「そのまま真っ直ぐです! ()の付近に、目印を立ててあります!」


 リカルドが速度を上げ、二人の前を走る。

 やがて、人の背丈ほどの赤い旗の立てられた何もない場所で立ち止まり、爆弾を取り出すと、やや乱暴に空中に取り付けて操作をし始めた。

 

「リカルド! このままじゃ間に合わん!」


 ディオがリカルドの肩を掴んでぐい、と引き、白銀のガントレットを押しつけた。

 

「俺が、やる」


 ディオが歯を食いしばり大きく踏み出し、渾身の力を込めた彼の()()の拳が、爆弾ごと壁に叩きつけられた。

 

 途端、壁にヒビが入り、ヒビの合間の瞬く間に白い炎が走っていく。

 透明な壁が打ち砕かれ――崩れ落ちた穴の向こうに、濃い青の空が見えた。


「――今だっ! 出てください! 早く!!!」


「シウ! 先に行って!」


 シウの後にセイヤが続き、ナスカがその後を追う。

 リカルドが出て、ディオが虫達に蹴りを入れつつも脱出した。


 穴は急速に塞がっていく。

 しかし、なんとかしてその穴の隙間から出ようと群がる黒い虫達を見て、シウが短く悲鳴を上げた。

 はみ出た頭をナスカが次々に撃ち抜くが、銃弾代わりの液体が少なくなってきたのか、次第に威力が落ちつつあった。


「ナスカ! 後は、これでッ!」


 僅かに残った穴へ、セイヤが蓋をするようにシールドを差し込む。

 そのシールドを押さえるセイヤの横へリカルドも回り込み、二人は力を合わせて押し留める。

 半透明のシールド越しに、がつん、がつん、としつこく体当たりする虫たちの影が揺れた。


 程なくして、穴が完全に塞がっていき、“白い町”の風景は跡形もなく消えた。

 役目を終えたシールドがアスファルトの地面に落ち、派手な音を立てる。


「っ、皆さん、怪我は!?」

「だいじょーぶ……」

「俺も……」

 

 リカルドの呼び掛けに、シウとセイヤが応える。

 ナスカやディオも息を切らしているが、問題は無さそうだった。


 

 ――遠くで、けたたましい蝉の鳴き声が響いている。

 

 眩しい日差しと青い空の下、それぞれが無事に全員で脱出できたことを確認すると、一斉に地面へと座り込んだ。

 


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