65話 ただいまを言えたら Part.1
"天使"がひた隠しにしようとする場所、ハシバミ町。
その町の調査に選出された対策部A班の四人……ディオとシウ、セイヤと、そして、ナスカ。
彼らが本部に呼び出された後、何度か作戦会議が行われ、
そして――。
ついに、その日が訪れた。
「おまたせしました~」
三人の前に、制服姿のナスカが現れる。
ナスカの制服は、上着は皆と同じだが、下はレギンスのようなぴったりとしたズボンの上に、長めのラップスカートを巻いた形になっていた。
「ナスカちゃんの制服って初めて見たけど、カッコイイ……!」
「うふふ、ありがとうございます~」
「――ナスカ!」
ナスカに、セイヤが駆け寄っていく。
いつもは違う色を纏っていた二人が、今日は同じ黒を身に纏う。
「俺、こうして制服姿で並べるの凄く嬉しいよ。でも……無理はしないでね」
「ありがとうございます~。セイヤさんこそ、お気をつけてください」
「うん」
セイヤがシールドを持つ手を握りしめる。
「今度は、俺が守るから」
◇
彼らはいつもの装備に防刃ベストを重ねており、手につけたプロテクターも、指先まで覆われるしっかりとしたものになっていた。
「あーっつーーい……それに動きにくーい……」
「我慢我慢。何があるか分からないからね」
炎天下の中、文句を言うシウをセイヤが宥める。
――そんな四人の元に、一人のアテンダントが現れた。
「どーも皆さん。お待たせしました」
現れたのは、先行部のリカルドだった。
彼もA班の面々と同じ装備を身につけ、大きいツールバッグのようなものを肩から下げている。
「それでは予定通り、僕が先導します。本当はS班も護衛として派遣したかったみたいですが……あんな状態ですからね」
「いいや、十分だ。お前も、S班にも匹敵する位の腕はあるだろう」
ディオの言葉に、リカルドは意外そうに彼を見つめた後、「光栄です」と笑った。
街へ続く道は、他の先行部のアテンダントが封鎖しており、その脇を五人は通り過ぎる。
町に近づくにつれて空気が冷えていき、暑いと騒いでいたはずのシウが自身の腕をさすった。
「着きましたよ」
そういうと、リカルドは何もない空間を前に足を止めた。
先には、まだ道が続いているように見える。
「……? まだ先じゃないの?」
「見えていないだけなんです。ここ、触れてみてください」
シウが手を伸ばすと、その指が何かにぺたりとふれる。
つるつるとしており、グローブ越しでもひやりと冷たい感覚が伝わる。
「なにこれ、透明な、壁……?」
「恐らく、天使の術か何かでしょう。こいつが町を覆い尽くしていて、その為に長らく調査が出来なかったんです」
リカルドは肩から提げていたバッグを地面に下ろした。
「ですが……それも今日で終わる」
バッグの中から何かを探り当て、取り出した。
それは彼の手のひらより一回り大きく、お弁当箱のような形をしており、電卓のようなパネルと配線が繋がれていた。
中には何か液体が入っているようで、リカルドが動かす度にちゃぷちゃぷと水音がした。
「それは?」
「爆弾です。この壁専用に開発されたもので、人への殺傷能力はありませんが……念の為、離れてて下さい」
リカルドが見えない壁に爆弾を取り付けると、まるで爆弾が宙に固定されているような、なんとも不思議な光景が繰り広げられた。
「こんなもんかな……よし」
リカルドが軽く壁を叩き確認した後、四人に振り返った。
「では、最終確認です。中での目的は覚えていますか?」
「はい。天使を封じていたモノの回収……ですよね?」
「そうです。そして、中では何があるか分かりません。万が一の事があったら、僕が囮になりますので、僕のバッグだけ持って逃げてください。重要なのは、貴方達の生存と、これから回収するモノを本部に持ち帰る事です」
それは、既に作戦会議で何度も説明のあった事だ。
納得のいかない表情を浮かべながらも、異議を唱える者はいなかった。
「それでは、これより壁をこじ開けます。穴が開いた瞬間に、すぐに中へと侵入してください。瞬時にふさがり始めますんで、迅速に行動を。爆弾に予備はありません」
全員が頷いたのを見届けた後、リカルドは爆弾を操作し、離れた。
彼が離れた瞬間、ガツンッと何かが叩きつけられるような音が響き、空間にヒビが入る。
そのヒビの合間を赤い液体が伝ったかと思うと、瞬時に白い炎が燃え上がる。
それらが一瞬のうちに起こったかと思うと、瞬く間に壁はぼろぼろと崩れ落ち、
開いた穴の先には――建物が建ち並んでいた。
「成功ですね。さ、行ってください」
割れた壁の隙間から、セイヤが入り込んでいく。
A班の三人もそれに続き、最後にリカルドが入り込んだ。
少しした後、壁の穴は塞がりはじめ、町の風景は完全に見えなくなっていった。




