53話 ほんのすこしの Part.3
シキが運ばれた先は、古びた神社の一角だった。
ほぼ廃墟に近く、鳥居は朽ち果て、木造の建物は所々が崩れかけている。
比較的無事な建物の中にシキは寝かされ、ディオが手当てを進めていった。
「ひとまずは、これで大丈夫だろう」
「シキ様……」
ディオの手当てにより、シキの様子も大分落ち着き、今は穏やかな表情で眼を閉じている。
「お二人共……本当に、本当にありがとうございます!!」
安心からか、金色の瞳を潤ませたアルテが、二人に勢い良く頭を下げる。
しかし、お礼を言われたにも関わらず、シウは複雑な顔を見せていた。
「あの、えっと、アルテちゃん。いったい何があったの? シキ、こんなボロボロで……それに、人を殺したなんて嘘だよね!?」
「それ、は」
「……本当……だあ」
うっすらと目をあけたシキが、言葉を発した。
「シキ!?」
「シキ様! 大丈夫ですか!?」
「ああ……すまねぇ、水くれねぇか」
シキは、アルテに支えられながらゆっくりと上体を起こすと、水を一口飲んだ。
「シ、シキ。本当って……?」
「人を、殺した事だ」
「シキ様!」
止めようとしたアルテに、シキは首を振って応える。
「やったのは、オレだ」
「……嘘」
「嘘じゃねぇ」
「わかった! 誰かを庇って、二人が罪を」
「そんな大層な理由もねぇよ。“ケモノガタ”の討伐の時に、同じ班のやつがトチりやがってなぁ。それで、揉めたんだよ……」
「ねえ、嘘でしょ……?」
「だーら、嘘じゃねぇって! 全部、本当だ。じゃなきゃあ、こんなになってまで逃げてねぇだろが」
シキがぶっきらぼうに言い放つと、シウは酷くショックを受けたようだった。
「なんで……あたし、信じてたのに」
シキは、なおも何か言いたげなシウから視線を逸らし、顔を伏せる。
「もう良いだろう、シウ。お前の望み通り助けたんだ。本部にバレる前に戻るぞ」
シウは泣き出しそうな顔を隠すように背を向けると、鳥居の方へ駆け出した。
その後をディオが追い、そうして二人は神社を去っていく。
「待っ……!」
立ち上がろうとしたアルテの腕を、シキが掴んだ。
「追うんじゃねぇ」
「でも! これじゃあシキ様はただの悪者じゃないですか!? せめて、アルテを助けようとしたって事だけでも、シウさんに……!」
「んなこたぁどうでも良いんだ。そもそもおめぇ、アイツに余計な事すんなって言われてただろうが」
「聞こえていたんですか……」
「ああ。今は、こうして助けて貰っただけでも十分だ」
そう言ってシキは、足の白い包帯を撫でた。
「シキ様……ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。アルテのせいで、あなたから何もかも奪ってしまった」
「言うなって」
力無い笑みを見せると、シキは懐から銀色のシガレットケースを取り出した。
そこから煙草を一本取り出し、火を点けた。
「……生きてりゃあ、どうにかなるさ……」
シキが上に向かって煙を吐き出すと、青い空が一瞬白く染まった。




