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37話 嵐の後に



 その日の夜。

 リビングには、いつものA班の面々に加え、新しく加わった二人の姿があった。


「改めて……S班から応援に来てくれた、シキとアルテです……」

「よお~」

「お世話になります!」


 妙に疲れた顔をしたセイヤが、私服に着替えた二人を紹介する。

 シキは適当に手を上げ、アルテは元気良く頭を下げた。


「よろしくねぇ。もしかして、こないだ助けてくれたって言う例の二人かい?」

「そうだよ。あの時は本当に助かったよ……ありがとう!」

「いーっていーって。あれがオレらの役割だしよ」

「キリ、アルテちゃんも凄かったんだぜ!? でかい斧を自在に振り回しててさあ!」

「んふふ、朝飯前ってやつですよー!」


 A班の面々それぞれが二人を歓迎する中、シウとディオだけは様子が違っていた。

 シウは何かを言いたげに二人をちらちらと見ては目を逸らし、ディオはそんなシウをずっと見つめている。

 

「ここに滞在する間は、オレらの事はA班の一員として扱ってもらって構わねぇ。業務も同じように割り振ってくれや」

「うん、分かった」

「だがなぁ、例外があんだ。“ケモノガタ”が出た時だ」


 出された名に、場が静まり返る。

 ここ最近出現するようになった強力な呪化(ジュカ)……“ケモノガタ”は、一度出ると、その付近で何度か出現する傾向があるらしい。

 つまり、一度撃退したとしてもあまり安心は出来ないのだ。


「この付近で要請がありゃあ、オレらはそっちに行かなきゃならねぇ。だから、いきなし仕事に穴開けちまうかも知れねぇが……その辺りは簡便してくれや」

「うん、分かったよ」

「そん代わり、オレらが居る間ぁきちんとケモノガタから守ってやる。安心しろぉ」

「頼もしいねぇ」

「まっかせてください! 皆様、シキ様共々、よろしくお願いします!」

 



 

 程なくして、夕食の時間が始まる。


 今日はシキとアルテ、二人の歓迎会と称して、様々な料理が並んでいた。中にはA班の面々の好物も並んでおり、それぞれが嬉々として舌鼓を打っている。

 ナスカ特製のエビフライを噛んだ途端、シキの瞳が輝いた。


「う……わ……めっ、ちゃくちゃうめぇな……」

「だーろー!?」


 感動するシキに、イクスが胸を張って言う。


「なんだ、この軽い歯触り……本当に油で揚げたのか? 普通の食用油でか? 衣だけじゃねぇ、中の具も申し分ねぇし、どうなってんだこらぁ……」

「ナスカちゃんの揚げ物は良い意味でヤバいからなー!」

 

 アルテも無言ではあるが、彼女もその金色の瞳を輝かしながら必死に頬張っている。そうして夢中になって食べ進める二人を見て、ナスカもニコニコと嬉しそうに微笑んだ。


「S班の社員寮とは違うのか? なんか良いもの食べてそうだけど」


 セイヤが問いかけると、シキは2本目のエビフライを尻尾ごと咀嚼して飲み込んだ後に、「あー……」と声を漏らした。


S班(オレら)は移動が多いからなぁ。社員寮じゃメシは供給されねぇんだ。もっぱら宿泊先でなんか食うか、外食が多いんだよ」

ほうなんへす(そうなんです)だはら(だから)ほーいう(こういう)へりょうひは(手料理は)ほんほ(ホント)ひはびはへ(久々で)……」

「アールテぇ、気持ちぁ分かるが、ちゃんと口の中のもん飲み込んでから話せえ」


 シキの言葉に、アルテは食べ物を目一杯詰め込んだ口を慌てて押さえた。


「なるほどね。それぞれ事情があるんだなぁ……」

「お二人共、おかわりもありますからね~! いっーぱい食べてください~!」


 二人の様子を見たナスカが、更に大皿を追加しながらも嬉しそうに言った。


 


 

 賑やかな夕食も終わり、それぞれの時間が訪れる。

 

 セイヤはリビングのソファーに腰掛け、ルナガル(ファースト社専用スマートフォン)を片手に明日の予定を確認していた。

 ナスカが暖かい緑茶を彼の前に置くと、セイヤは「ありがと」と笑顔を向ける。

 

 そんな彼の元に、シキが現れる。


「よお、ちょっと良いかリーダー」

「あ、うん」

 

 シキは、セイヤの対面のソファーに腰掛けた。


「今日はあんがとな。急だったんに、オレらの歓迎会まで開いて貰って」

「ううん。本当はもっとちゃんとしたかったんだけどさ」

「十分すぎらぁ。それに、どうせスワンのヤツぁ、また寸前に連絡したんだろ」

「そうなんだよ……。実はシキ達がうちに来た時、丁度スワンさんからの電話の最中だったんだけどさ。インターホンの音が聞こえてたみたいで、しれっと『あ、着いたみたいですねー』なんて言うしさ……」


 呆れたように言うセイヤに、シキがげらげらと笑った。

 

「直前過ぎんだろ! でもまあ、アイツぁどこに対してもそんな感じだぞお?」

「……良かった。俺だけじゃ無いんだ」


 セイヤが遠い目をしつつ、小さい声でぽつりと漏らした。

 

「オレらぁ、色んな班を渡り歩いてるんだがな、アイツぁ毎回そんな感じで連絡しているらしくてよ。何度か『いきなり過ぎて寮に泊められない』って言われた時もあってなぁ。困ったもんだぜ」

「うわあ……それは大変だったね」

「本当になぁ」


 苦笑いしながらも、セイヤはテーブルの上の暖かい緑茶に口を付けた。

 

「そーいやよ、『A班の泣き虫リーダー』ってのはおめぇの事で良いのかぁ?」

「げは!!!」


 セイヤが緑茶を吹き出して咳き込む。


「えっ、げほ、なっ、ええ!?」

「クイナ知ってんだろぉ? アイツが言ってたんだよ。A班にゃあ泣き虫の弟分が居て、今はリーダーやってるハズだってなぁ」

「クイナさん……」


 セイヤは恥ずかしそうに顔を伏せながら、「俺、そんなに泣いてたかな……」と呟いた。

 

 クイナとは、セイヤの前にA班リーダーを勤めていた女性のことだった。藤色の髪と赤い瞳の活発な女性で、今は自身のアテンダント共々S班に移籍し、そちらで活動している。


「そんでなあ、ソイツがリーダーやってんなら必ず良い班のハズだ、とも言ってたぞぉ?」

「……!」

「今日の食卓を見て確信したぜぇ。ちゃぁんと噂通りじゃねぇか。なぁ?」


 シキがニヤリと笑う。

 

「少しの間だが、よろしく頼むぜ。セイヤ」

「……うん! でも、俺、泣き虫じゃないから……」

「はは、クイナに言って訂正しとくぜぇ。ほんじゃあな」


 そう言ってシキは立ち上がり、リビングの出入り口へと向かっていく。


「あっ! そうだ、シキ!」

「んあ?」

「実は、明日さ…………」


 

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