36話 襲来・シキとアルテ
A班が“ケモノガタ”の襲撃を受けてから数日後。
この日はスワンの計らいにより、慰労の為にと全員が休暇扱いになっていた。
ケモノガタ戦の後処理が一段落し、各々が自由に過ごす中、セイヤはリビングに設置してある共用のノートパソコンで何やら調べ物をしていた。
そんなセイヤのルナガル(ファースト社専用スマートフォン)に、スワンからの着信が入る。
「はい、A班セイヤです」
『セイヤさん、こんにちは。本部のスワンです。調子はどうですか?』
「どうも。変わりないです。えーと……何か用事ですか?」
『お知らせです。先のケモノガタ襲撃の件を省みまして、今日から応援要員を二人、A班に派遣する事となりました』
「えっ、応援要員?」
『そうです。確か、まだ空き部屋がありましたよね? そちらに滞在させてあげてください』
「確かにありますけど……え、ちょっと待って、さっき今日からって言いました?」
セイヤが言い終わるのと同時に、社員寮への来客を告げる呼び出しチャイムが鳴った。
『あ、着いたようですね。では、仲良くしてあげてください』
「えっ?」
『大丈夫です。戦力的には問題無い方々ですよ。それに顔見知りの方ですし』
「いや、違う、そこじゃなくて、え、顔見知り?」
情報量が多い。
そもそも、もう来てるなんて全く聞いてない。
セイヤがそう言う前に、もう一度チャイムが鳴り、二階から誰かが降りて来る音が聞こえた。
『では、そろそろ出てあげてください。それでは~』
「え、え、え!」
そうしてスワンからの通話が一方的に切られた。
「なんで……なんでいつもいつももっと事前に教えてくれないんですかーー!?!?!?」
とっくに通話の切れたルナガルに向かい、セイヤは叫んだ。
◇
チャイムに気づき降りてたのはシウだった。
「あれ、誰もいないのかな? はーい」
シウが玄関へ向かって扉を開けると、そこには長めの茶髪の男が立っていた。
「……ん、あー……んだぁ、おめぇもA班か?」
灰色の垂れがちの目でシウを見下ろしたその男性は、そう言って頭を掻く。
前髪がセンター分けされた茶髪の男は、20代後半くらいに見えた。ファースト社の黒い制服の上に、オリーブ色のモッズコートを着て、その腕にはエクスナーである事を示す白の腕章と、“S”と書かれた赤の腕章がつけられてる。
「あの、え、えと、ど、どなたですか?」
「わー! ごめん、シウ! 出てもらっちゃって……って、シキさん!?」
ばたばたと忙しなく現れたセイヤが、シキの姿を見て驚く。
シキと呼ばれた男は「よぉ」と挨拶する。
「呼び捨てで構わねぇよ。おめぇは……あー、確かセイヤとか言ったか?」
「あっ、うん。ここに何か用でも?」
「ここA班の社員寮だよなぁ? リーダーはいねぇか?」
「A班のリーダーは俺だよ」
「ほお、おめぇがリーダーだったのか。ん、分かった」
うんうん、と一人納得したように、シキは頷く。
「じゃリーダー、今日から世話になんぞ。よろしくなーぁ」
「えっ」
言い終えるや否や、シキは靴を脱ぎさっと揃えると、A班の社員寮内へずかずかと入り込んでいく。
「え、ちょ、え!? 待って待って!」
「んぁ?」
「世話になるって!?」
「スワンから聞いてねぇのか? この辺りでケモノガタが出始めてっから、オレらがここの応援として派遣されたんだよ」
「えっ、あ、さっき聞いた……」
「だろぉ? A班の社員寮が部屋空いてっから、そこに行けって言われてなぁ。じゃ、世話になんぞー」
「ちょっ、ちょちょ! 待って! とりあえず待ってーー!!」
セイヤの制止を聞かず、ずんずんと進むシキ。
二人が奥へと消えていくのを、シウは玄関先に立ち尽くしたまま、ぽかんと眺めていた。
そのシウの肩を、つんつんと誰かがつつく。
シウが振り向くと、そこにはワインレッドの髪の少女が居た。
「あのー、お邪魔しても良いですか?」
「あっ、うん」
「どうも、初めまして。シキ様のアテンダントのアルテです!」
「あ、シウ、です」
赤い腕章をつけた少女が、ぺこりと頭を下げる。外ハネの髪がぴょこぴょこと揺れ、まん丸い金色の瞳がこちらをじっと見つめた。
身長もシウと同じくらい。だが、見た目の年齢は彼女より下であろうか……?
「シキ様はどちらへ行きました?」
「なんか、セイヤ……えと、うちのリーダーと一緒に中の方に」
「なるほど。リーダーさんに会えたと言う事はー……、荷物を下ろしても良さそうですね!」
アルテは一度玄関から出ると、程なくして大きな段ボールを3つほど重ねたものを抱えて戻ってくる。
「空き部屋があると聞いたのですが、それはどちらですか?」
「えっと、二階の……表札がかかってないトコ、かな?」
「わかりました!」
アルテは段ボールを二階へと運び入れる。
その後も、ひょいひょいと手際よく荷物を運んでいった。
「……ふう、では少しの間ですが、よろしくお願いしますね!」
アルテはぺこりと頭を下げると、社員寮の奥へと向かっていった。
「…………えぇ…………」
嵐のような二人の来訪に、シウはただただ立ち尽くすばかりだった。




