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35話 ラフィング・ボア Part.2


 

 イノシシの“ケモノガタ”との遭遇から一刻。

 A班の三人……セイヤ、ディオ、そしてイクスは、本部の会議室に居た。


「うん、大丈夫だよ。うん。分かった。それじゃあ」


 セイヤが通話を終えると、自身のルナガル(ファースト社専用のスマートフォン)をしまう。


「ナスカか?」

「うん。凄く心配してたよ……ディオの怪我の方は?」

「大事無い」


 ディオは制服に着替えていた。

 着ていた私服は引き裂かれていたが、怪我自体は軽い擦り傷と打撲程度だったらしい。

 本人曰く「牙に引っ掛けられて転ばされただけだ」との事だったが……。


「シウの方も問題は無いのだが、念のため今日は泊まって欲しいとの事だった。大きな怪我は無いが、頭を打っているらしくてな」

「そっかあ……ひとまず、無事で良かったよ」

「S班には感謝しかないな!」

「本当だね」


 《S班》。

 そこは他の班とは違い、ケモノガタの討伐を中心に活動する特別な班だった。

 アテンダントはもちろんエクスナーも実力者揃いで、ケモノガタが出現した地域や、人員が足りない班の補助などに派遣されていたりする。


「あのケモノガタ、身元は判明しそうなのか?」

「ううん。遺留品が出なくて、行方不明者から洗い出すしか無いってさ。あんな場所で、一体何を願ったんだろうね……」


 少しの間、会議室に静寂が流れる。

 

「もう報告は済んだのだろう? お前らは先に社員寮に帰っておけ。俺は、シウに付き添う」

「うん。ナスカにも伝えておくね」

「頼む」


 会議室を出る二人を見送った後、ディオは深く息を吐いた。




 

 ――セイヤ達が本部に到着する、数刻前の事。

 

 白いベッドの上で眠り続けるシウの元には、ディオ、そして全身を白い衣装で覆い隠された人物……スワンが居た。

 しかし、唯一見えているその口元には、いつもの笑顔は無かった。


「シウさんですが、とりあえず今の所は目立った影響は無さそうです。ただ、詳しい結果はもう少し時間を頂かないといけませんね」

「そうか……」

「しかし、傷まで癒すとは。一体、貴方はどうなっているのですか?」

「俺も初めてだ。イチかバチかだったんだ」


 ディオは自身の腕を見る。

 自ら噛み千切った皮膚は既に塞がっており、傷跡すら無かった。


「俺の血には、呪化に対しての特効がある。だから……呪化によって受けた傷にも効果があるのでは、と」

「どうやらそのようですね。事実、木にぶつけられたと言う背中の打撲はそのままでした。まあ、骨折もしてないですし、こちらは数日痛むくらいで問題無いでしょう」


 スワンの指が、シウの頬に触れた。

 彼女は着替えさせられ、今は穏やかな寝息を立てている。

 

「ですが、もう二度としないように。治療を受けた側がどうなるかは分かりません。下手をすれば、人ではない……呪化のような何か(・・)に変わってしまうかも知れません」


 スワンはディオに向き直る。

 目元を覆う布のせいでその表情は分からないが、瞳はまっすぐ彼を貫いているように思えた。

 

「その時に処分するのは、貴方自身ですよ」

「……分かっている」


 スワンは、そこで今日初めての笑みを見せた。


「この事、アサキ社長には秘密にしておきます」

「恩に着る」

「いいえ。街を護る為であれば、あの方は倫理からも外れた行動をもしますから。私は、エクスナー達が材料として使われることはあまり望んでいませんので」


 その時、スワンの持つルナガルから通知音が鳴った。

 

「おや、そろそろセイヤさん達が到着するみたいですよ」

「分かった。事情を話してくる」

「はい。シウさんは看ておきますから」

「頼む」

 

「……偶然とは言え、貴方はとんでもない人を選択をしましたね。でもまあ、大丈夫でしょう。きっとね」


 スワンは愛おしそうにシウの頭を撫でた。


 

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