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33話 うみのおと、けもののこえ Part.2



 ディオとシウが休暇を取っている中、他のA班の面々はそれぞれの業務をこなしていた。

 今日はセイヤとイクスの二人が、自分達の社員寮にほど近い場所を見回っていた。


「今日も平和だぜー!」

「そうだね~。前二連続だったし、しばらくは出ないでしょー……」

「次はケモノガタだったりしてなー!?」

「そんなまさか」


 道を歩きながらも、セイヤとイクスはお互いに笑い飛ばす。

 しかし、それは段々と乾いた笑いになっていった。


「……無いよね?」

「って思いたいけどな!」


 ふと、セイヤが足を止めた。


「どしたー?」

「ねえイクス。あの二人、今日どこ行くって言ってたっけ?」

「確か、この近くにある展望台ってたぜ? あ、ほら! 二人ともルナガル持ってるみたいだ!」

 

 イクスが指し示すルナガル(ファースト社専用のスマートフォン)の画面。

 そこに表示された地図には、彼ら以外にもA班の班員を示す赤い点が2つ並んで動いていた。

 

「……イクス、俺さ。なんか、凄く嫌な予感がするんだけど……」

「へっ!?」





 カフェでの食事を終えた後、ディオとシウの二人は、近くの小道を適当に散策していた。

 風に吹かれ、さらさらと葉の揺れる音がする。


 「シウ、この後どこか行きたい所は、」


 ディオがそう言って振り向くと、彼女は呆然と立ち尽くしていた。


「シウ?」


 その瞬間。

 シウは、全身の肌が泡立つような、不快な感覚に包まれていた。

 その感覚はやがて、体を巡る血が徐々に凍りついてしまうような感覚に変わり、体がガタガタと震え出す。


「……やだ」

「どうした?」

「なんか……おかしい、こわい、こわいよ……!」

「おい、シウ!」


 地面に座り込んだシウは頭を両手で抱え、何かを振り払おうとするかのように、何度も何度も頭を振るう。


「シウ! 大丈夫か!?」


「……なにか、くる……!!」


 シウがそう言うのと同時に、この世の物とは思えないような咆哮が辺りに響いた。

 それは豚のような動物の声に人間の叫び声が混ざったような、酷く不快な声。


「この声は、呪化!? いや、まさか……」


 声からしてかなり近くだ。

 ディオはシウを背にし、目の前の気配に構える。

 

 何かが駆けてくる音が聞こえる。

 それは、真っ直ぐに二人の元へ向かって来ている。


 程なくして、バキバキと木をなぎ倒し、 四本足の生えた大きく黒い塊が二人の目の前に現れた。

 

「……“ケモノガタ”……!!」


 ディオに答えるように、()()は不快な咆哮を上げた。

 

 黒い木の根が複雑に絡み合ったそれは、寸胴に四本足が生え、大きめの牙があり、まるで簡易的に描かれたイノシシのようだ。

 イノシシの“ケモノガタ”は、ただの窪んだ空洞のような目でこちらを見ている。興奮しているようで、時折足で地面を蹴りつける仕草も見せた。


「……シウ」


 ディオはケモノガタから目を反らさぬままでシウに呼び掛ける。


「逃げられるか?」

「だめ、なんか、たてなくて……ごめん……ごめんなさい……」


 シウはか細く、震えた声で、謝罪を繰り返す。

 

 ディオがシウを抱えて撤退するのは簡単だった。

 だが、その場合は野放しにされたこの呪化が何をするか分からない。ましてや、近くには人が集まる場所がある。


「シウ。俺が守る。その間、本部に連絡を取れるか」

「う、ん……」


 ディオは着ていたジャケットを脱ぎ捨てると、拳を構え、真っ直ぐにイノシシを見据えた。


 

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