24話 純真無垢 Part.1
その日、待機係となったシウとディオの二人は自室に居た。
机に向かうシウの横にディオが立っており、彼女の目の前にある紙に何かを書き込んでいく。
「……呪化の体は、繊維状の物質で構成されている。その繊維を断ち切る攻撃が一番有効とされ、その為、支給される武器は刃物がほとんどだ」
ディオが、紙の上に書かれたいくつもの縦の線を横切るように、ビッと横の線を描いた。
「その上、ファースト社で扱う『白い柄の武器』は特別製で、特に呪化に効き易く作られている。お前のナイフもそうだな」
「へぇ……」
「対して、銃の類いは安全圏から攻撃出来る事が強みだが……点でダメージを与える銃創はあまり有効とは言えないんだ」
説明しながら、縦の線が描かれた上に、ぽつっと丸を描いた。
「呪化の体は銃弾が貫通しやすく、事故が増える可能性も高くなる。だからファースト社ではあまり使われていない」
「へー。ディオは、えと、拳? 殴ったり蹴ったり? してるよね。そういうのも有効なの?」
「ああ、俺の場合はこれが、」
そう言いながら、ディオが自身のガントレットを手に取った――その瞬間、二人のルナガル(ファースト社専用スマホ)からブザー音が鳴り響いた。
「な、なに!?」
「……緊急要請だ。行くぞ」
ディオは手に取ったガントレットをそのまま腕に装着し、ジャケットを着込む。
シウも慌てて制服を羽織り、装備を整えた。
二人で階下へ降りて行くと、すでにセイヤが玄関で待っていた。いつもの剣鉈の入ったホルダーを提げ、その手には、プロテクターと似た素材のシールドも持っていた。
「セイヤ! 緊急要請って……」
「この近くで呪化が出たらしいんだ。今は、先行部隊が抑え込んでるって……行こう!」
三人で社用車の元へと向かい、ディオが運転席に乗り込んだ。隣にセイヤが、後部座席にはシウが座り、フロントミラー越しの二人を不安そうに見つめる。
「ディオ、頼む!」
「ああ」
サイレンを鳴らしながら、A班の車が走り出した。
◇
現場につくと、人の出入りを規制する為の黄色いテープが張り巡らされていた。
三人はそれを潜り抜け、奥へと駆けていく。
少し入って行くと、地面に先行部のアテンダントが横たわっていた。
その脇腹からは激しい出血が見て取れ、もう一人のアテンダントが治療に当たっているようだが、止血用に当てられた布は赤く染まりつつあった。
「っ……!」
思わずシウは息をのむ。
「あれか」
二人のアテンダントが取り囲む、その中心に呪化らしき影が。しかし、何か違和感を感じ、シウは首を傾げる。
「……? 小さい?」
そう。人の形をしてはいるが、いつもの呪化よりも幾分か小さいのだ。
「なんか、いつもと違うケド、あれが“ケモノガタ”?」
「いいや、“ヒトガタ”だよ。あれは、」
セイヤは一呼吸置いて、酷く言いにくそうに言った。
「……あれは、子供が呪化したんだ」
「こっ、こども!?」
「うん。子供でも、“白い羽根”を使うとああなっちゃうんだ」
「そん、な」
「シウ」
隣に来ていたディオが言う。
「油断するなよ。姿は子供でも、あれは呪化だ」
「う、ん」
「子供の呪化は動きが読みにくい。気を付けろ」
「わ、わかった」
ディオを先頭に、三人が呪化の元へ駆けていった。




