21話 ヒトか、ケモノか Part.1
振り下ろされる黒い呪化の腕を、ディオはガントレットで受け流し、反撃とばかりに白銀の拳を真っ正面から叩き込んだ。
バヂッと大きな白い火花が飛び散ったと同時に、呪化の頭部が粉砕され、辺りに焦げた匂いが充満する。
その激しい一撃でよろめいた隙に、セイヤが後ろから柄の白い剣鉈で肩から右腕を切り落とす。
「今だよ! シウ!!」
セイヤの合図で、シウが飛び出した。
セイヤが切り落とした傷に、両手で握りしめた白い柄のナイフを突き立て、力いっぱい引き下ろす。
パチパチと小さな火花を飛び散らせながら、ナイフは呪化の体を滑らかに引き裂いていく。
広がった傷に手を突っ込み、わき腹の辺りにあった“赤い実”を探り当て握りしめると、抵抗するかのように黒い根が手を覆っていく。
圧迫感は感じるが、痛みは無い……腕に着けたプロテクターが上手く防いでくれているようだ。
「んっ……ぐううー!」
そのまま渾身の力を込めて、シウは“赤い実”を掴んだ手を引っ張る。
やがて、ブチブチッ!と音を立て、細かい根に覆われた腕が引き抜かれた。
「やっ……た! っわぁ!!」
「おっと!」
勢い余って後ろへ倒れそうになるシウを、セイヤの腕が受け止める。
「セイヤ! ありがとー!」
セイヤは応える代わりに、にこりと微笑み返した。
呪化が悲鳴を上げながらびたりと動きを止め、やがて散り散りに消え去っていった。
「やったね、シウ!」
シウの手の中で、“赤い実”がキラリと煌く。
――同時に、彼女の胸の奥に、つきん、と痛みが走った。
◇
討伐を終えた現場。先行部が状況確認を進めるその横で、シウは道路脇の縁石に腰かけ、浮かない表情をしていた。
そんなシウの隣に、報告を終えたセイヤが腰かける。
「シウ、どうしたの? なんかあった?」
「んー……ううん」
「もしかしてさ、呪化が元々人間だったのを気にしてる? ……自分が、人を殺してしまったんじゃないかって」
「……!」
ドキッとしてセイヤを見ると、彼は翡翠色の瞳を細めながら優しく微笑んだ。
「シウだけじゃないんだ。一番最初に討伐した時、そうやって気にしちゃう人が多いんだってさ」
「そう、なんだ」
「うん。でもさ、気にしなくて良いんだよ。呪化してしまった人は、もう人間じゃ無いから……それに、放っておくと他の人へ危害を加えてしまう。だから、俺達がしている事は正しいんだよ」
『呪化すれば人では無い』
それは、ディオと会ったばかりの頃にも言われた言葉だった。しかしシウはまだ、あの歪な人の陰のような姿に、それが人間だった頃の面影を見てしまう。
「セイヤは、すごいね……まだ、あたしは割り切れないかも」
シウがそう言うと、セイヤはどこか寂しそうに笑った。
「それはそうとさ、ディオが帰ってきて良かったね? すっごい寂しそうだったから心配してたんだ」
「へぁっ!?」
突然のセイヤの発言に、彼女は驚き、声を裏返らせる。
「さ、さびしいなんて、そんな」
「おい、帰るぞ」
「あ、はーい! ほら、行くよシウ」
「……べつに、さびしくなんかなかったもん……」
ぶつぶつと言いながら立ち上がり、シウはセイヤの後をついていく。
不満げに膨らませられた彼女の頬は、少し赤くなっていた。




