閑話2-3 先行部たるもの Part.3
あれから幾日か経った後――。
「では、失礼します」
回収された“白い羽根”を届けた後、頭を下げながら部屋を出る。そして、リカルドは自分のルナガルを確認しながら、本部の廊下を歩いて行く。
「明日はー……14時からG地区の見回りか」
ルナガルには、その日の相方となる人物の名前も表示される。
しかし、ここ最近、そこにザックの名が示される事が無くなっていた。
「そういや、最近あいつみないな」
「――ザック? ああ……亡くなったってよ。呪化から一般人庇ったって」
リカルドの疑問は、あっさりと次の日の相方から明かされる。
「そう、なんだ……」
「おれも知ったの偶然なんだけどなー。他のアテンダントの殉職なんて、いちいち知らされないからなぁ」
元々、先行部自体が危険な仕事である上に、そこに所属するアテンダント達は軽く扱われるきらいがある。
だから、こんな事は珍しくなかった。
その後何人かに聞くと、あの日以来ザックは上の空になっている事があったそうだった。
少しのミスが命取りになりかねない先行部では、何かに心を動かされない方が長生き出来るのだろう。
その事を、リカルドは分かっていた。
だが……。
◇
とある日。
見回りを終えたリカルドは、あのお弁当屋の目の前に差し掛かり、立ち止まった。
あんな事があった場所だ。既に建物は閉鎖され、程なくして取り壊しが始まると言う。
様々な物が散乱していた店内も、血にまみれていた床も、既に何もかもがまっさらにされていた。
「……」
踵を返すと、彼は近くにあったコンビニへと入る。そこで、何種類かのおかずが入った幕の内弁当を1つ購入した。
本部の休憩室で、持ち込んだ弁当を机の上に広げ、割り箸を割ると手をあわせた。
「いただきます」
おかずを摘まみ、黙々と食べ進める。
「……あんまり美味しくないな」
――あいつが食べていたお弁当は、もっと美味しかったのだろうか。
リカルドにはもう、その事を確かめる術が無かった。
空になった弁当箱をゴミ箱に入れると、リカルドは背伸びをしながら休憩室を出ていった。
◇
人払いをするリカルドの前に、対策部が現れる。
その内の一人の腕に、エクスナーである証の白い腕章が光っていた。
「お待たせしました、対策部です!」
「どうも、お疲れ様です。呪化はこの先に居ますんで」
「ありがとう! いってきます!」
「お気をつけて。どうか、ご武運を」
“エクスナー”。
その名の意味は、『期待された者』だと聞く。この街の悲劇を解決することを、一方的に期待された者達。
そして自分達は、そんな彼等をあらゆる意味で導く為の『案内人』。
駆け去って行く対策部の面々を見送った後、リカルドはふっと息を吐いた。
そして、
「……早く、僕達を解放してくださいね」
彼等の背中に向けて、ぽつりと呟いた。




