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18話 ハナズオウ


 

 シウがキリ、イクスと見回りに行く事となった日の明け方の事。

 電話を受け、社員寮を出たディオは、夜明け前の闇の中でバイクを走らせていた――。


 

 とある市街地の近くにある雑木林。

 付近には、既に何台かの車が並んでおり、ディオはその近くにバイクを止めると、足早に中へ入り込んでいく。

 

 少し進んでいくと、次第にライトの明かりが見え始め、程なくして『立入禁止』と書かれた黄色いロープが張り巡らされた場所にたどり着いた。

 入り口らしき所では、黒い制服の上から防具を身に付け、武器やシールドを手に持った者達……ファースト社のアテンダント達が落ち着かない様子で立っており、その中の一人がディオに駆け寄ってくる。


「ディオさん、お待ちしてました」


 先行部の金髪のアテンダント……リカルドが、ほっとしたような、されど険しい表情でディオを出迎えた。


()()は何処だ?」

「案内します、こちらです。……すみません、僕は離れます。絶対に、誰も入れないように」


 リカルドの言葉に他のアテンダントが頷く。

 

 二人で黄色いロープをくぐって中へと入っていくと、そこには凄惨な光景が広がっていた。

 地面に傷ついた何人ものアテンダントが寝かされており、手当てを施す者達が忙しなく駆け回っている。

 手当てを受けながら呻き声を上げる者や、中には既に反応の無い者もいた。


「予めこちらに誘導されていた為に、幸いにも一般の方には被害が出ていません。しかしご覧の有様で……今はなんとか抑え込んではいますが、それもいつまで持つかどうか」


 足早に二人で進んでいき、少し開けた場所に出ると、リカルドの言う通り、アテンダント達が何かを取り囲んでいた。


 その中心に、()()はいた。


 それは、首長竜のような姿の呪化(ジュカ)だった。

 しかし、あまりにも巨大であり、その先端に顔らしいものはなく、ただただ長い首だけがそびえ立っている。

 黒く太い根が絡み合ったようなその首には、濃いピンク色に光る小さな花のようなものが無数に咲き誇っていた。


 明け方の闇と黒い木の根に、その花の光は酷く映えた。

 

 二階建ての家屋程の大きさがある体躯を震わせ、甲高い声を上げると、その長い首を鞭のように振り回してアテンダント達を薙ぎ払う。

 アテンダント達は一斉にシールドを構えて防ごうとするが、首が当たった地面はえぐれ、直撃を受けたアテンダントがシールドごと吹き飛ばされていった。

 

 ――そのすぐ横で、一人のアテンダントがその呪化に向かって誰かの名前を呼び続けていた。

 数人に抑え込まれながらも泣き叫び、何度も何度も必死に誰かの名を呼ぶ。


「アイツが、失敗した奴か」

「その様です」


 ディオが狂乱し叫び続けるアテンダントの元へ向かうと、涙に濡れた顔をそちらに向ける。

 

「……あな、た、は…………しゅごしん……さま?」

 

 アテンダントは、彼がディオである事に気付くと、何かを否定するように首を横に振るいながら飛びつき、その体に縋りついた。


「お願いです!!! 彼はまだ! あれでもまだ、生きているんです! きっとまだ、戻れる! お願いです、まだ、ころさないで!!! お願い」

「人間が“呪化”すれば、それはもう人間では無い。忘れたか?」

 

 訴えを遮るディオの厳しい口調に、アテンダントがびくりと体をすくませる。


「今広がるこの惨状は、人の内に死なせてやれなかったお前のせいだ」

「……そん……な……」

「だが……もう、良いんだ。()()


 ディオがアテンダントの頭に手をかざすと、その手と頭の隙間でバチッ!と白い火花が弾けた。

 その瞬間、彼女はふっと意識を失い、力無く地面に倒れ込んだ。


「今の内に、運んでやれ」


 押さえ込んでいた二人のアテンダントが頷くと、彼女を抱え上げ運んでいく。


「後は、俺がやる」

「お願いします。どうか、ご武運を」


 ディオはリカルドに頷くと、前に出て行った。


「――先行部隊ッ!! 総員待避! 総員待避!! 全員撤退だ!!  急げ!!!」

 

 リカルドが声を上げてアテンダント達に指示を出すと、彼らはディオと入れ替わるようにしてバタバタと退いていく。

 入れ替わりで一人だけ勇んできたディオを見て、異形の呪化が威嚇するように咆哮を上げた。


「今まで良く働いてくれた。それなのに、こんな最期になって……すまないな」


 謝罪を告げた後。ディオは着ていたジャケットを脱ぎ捨て、腕の銀のガントレットも外し、それも投げ捨てる。

 露わになった腕を振るうと、亀裂が入るかのようにその皮膚が裂けていく。

 

 ――その傷から血が溢れ出す代わりに、白い炎が煌々と燃え上がった。

 炎は細く絡みつくように空中を舞い、彼の周りを躍動する。

 彼の腕の傷は地割れのように広がっていき、その度に、(くう)を舞う炎は膨れ上がっていった。


「せめて、少しでも苦しまないように……直ぐに、終わらせてやる」


 炎に照らされた深い青の瞳が、“呪化”を射抜いた。

 異形の呪化が咆哮を上げ、それに呼応するように、彼も獣のような咆哮を上げた。



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