16話 七色ホルダー・キリとイクス Part.1
まだ太陽の気配が感じられない真夜中。
ディオのルナガル(ファースト社専用の白いスマートフォン)が、静寂を切り裂くように着信音を鳴り響かせる。
「……俺だ……分かった」
ディオが短い会話を終えて電話を切ると、素早く着替えを済ませる。
そして、制服の上からいつものジャケットを羽織り、静かに部屋を出て行った。
――その背中を、カーテンの隙間からシウが見ていた。
ドアが開いた時、廊下の常夜灯が彼の横顔を一瞬だけ照らし出す。
その横顔は……酷く険しい表情をしていた。
「(ディオ……?)」
見た事の無い表情の彼を見て、シウは何が起こったのかと考える。
しかし、元々ぼんやりとしていた彼女の意識は、程なくして夢の中へと落ちてしまった。
◇
その日の朝。
シウは久しぶりに、酷く緊張していた。
その原因は、目の前の二人にある。
「シウちゃんとの見回りは初めてだな! よろしくなー!」
「よろしくねぇ」
イクスとキリだ。
今日は見回りの担当だったのだが、ディオが急用で本部へ向かってしまった為、急遽この二人と共に見回りにあたる事となってしまったのだ。
「色んな人と組むのも経験だよ!」とは、セイヤの弁である。
「よ、よろしく、お願いします……」
たどたどしくシウが言う。
二人とは社員寮では毎日顔を合わせてはいるが、今日は初めて共に仕事をする相手だ。
「(何かやらかしちゃったらどうしよ……!)」
動きもどことなくぎこちなくなってしまい、緊張している事をその全身が物語っている。
「シウちゃんガッチガチだなー! 大丈夫か!?」
「そんなに緊張しなくて良いさね。何か飲んでおくかい?」
「は、はい……」
「ほら」
シウは、キリから差し出されたお茶のペットボトルを両手で受け取ると、そのまま蓋を開けずに口につける。
それを見たイクスが笑いながらペットボトルを預かると、蓋を開けて再び手渡した。
「す、すみませんん」
「いーっていーって!」
そんな二人を後目に、キリは自分のルナガルを取り出すと、何かを操作し始めた。
「ここは、今先行部が回ってるみたいだから、んー……今日はこの辺りをまわろうかねぇ」
「あれ、先行部って、見回りもするんですか?」
“先行部”。
それはアテンダントのみで構成されている部隊だった。主にシウ達が所属する対策部の支援を始めとして、様々な事を請け負っていた。
シウが初めて呪化に遭遇した時……あの時に駆けつけていたファースト社の社員も、先行部の一員だったらしい。
「そうだねぇ。むしろそっちが本業さ。うちら対策部よりも先行して呪化を見つけ、現場に向かう……だから先行部さね」
「そうだったんだ……」
シウも、自分のルナガルを取り出して地図を開いた。
ルナガルの画面上ではこの街全域の地図が表示されており、それぞれの地区で点が動き回っている。
赤く点滅している点が自分達で、近くの区域では、先程キリが言っていた先行部であろう白い点が動き回っていた。
「よし、準備出来たね」
「んじゃ、行っくかー!」
「よ、よろしくおねがいします」