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閑話 新緑より Part.1


 

 それは、シウがファースト社に加入する前の

 数年ほど前の事。

 

 A班のリーダーが、

 まだセイヤではなかった頃のお話。





 願いが叶う街があった。


 そこは海と山、そして森に囲まれたよくある街だったが、

 その遙か上空には天使が住んでいて、彼が落とす羽根を手に入れた者の願いを叶えてくれるらしい――。



「ウソだよ」


 柄の白い剣鉈(けんなた)を手にした茶髪の少年が言った。

 彼は警官のような形の黒い制服を着て、左脚には手にしている鉈が収められていたホルダーが提げられている。


「好きなだけ願いが叶うなんて、そんなことあるワケ無いじゃないか。これは人を化け物にするだけの……悪魔の羽根だよ」


 少年が地面に落ちた白い羽根を手に取る。

 なんらかの鳥の風切り羽根のように見えるそれは、仄かに虹色の光を纏っていた。

 懐から細めの瓶を取り出すと、羽根をその中に放り入れ、厳重に蓋を閉める。


「これを食べると、全身から血が吹き出して、最終的には黒い木の根の集合体みたいな醜い化け物になって……他の人を殺すだけの存在になる。俺達は“呪化(ジュカ)”って呼んでるんだ」


 瓶の中の“白い羽根”は、陽光を受け、より一層七色に光る。

 それはまるでシャボン玉のような、水溜まりに混ざる油膜のような……そんなゆらゆらとした虹色を見せた。


「……俺は呪化を許さない。なってしまった人も、それになろうとする人も……みんな許さない」


 小さな声で呟きながら、少年は“白い羽根”の入った瓶を忌まわしげに握った。


「ねえ。君さ、何の願いを叶えたくて“白い羽根(これ)”を使おうとしたんだ? お金? それとも名声? なんであれ、この話を聞いてもまだ使いたければ使えばいいよ」


 少年は“白い羽根”の入った瓶を突き出して、その強い翡翠色の光を湛えた瞳で真っ直ぐに睨みつけてくる。


「すぐに、俺が殺してあげるから」


 彼の黒い制服の首元で、銀色の狼のバッジが煌めいた。





「セイヤ!!」


 自室に向かおうとしていた茶髪の少年を、銀の長髪の男が大声で呼び止め、少年が少し面倒臭そうに振り向いた。


「お前! まぁた一般人脅しただろ!? 本部からお叱りが来てたぞ!」

「脅してないよ、イクス。俺は本当の事を言っただけだ」

「いや、そもそもそれが……んあー!! ともかく! 一般の人を怖がらせるなよ!」

「なぜ? 自分勝手に“白い羽根”を使おうとして人殺しになろうとしてた連中だろ」

「セイヤ!!!」


 咎めるように名を呼ばれると、セイヤは自分を睨む赤い瞳からふいと目を逸らす。


「ナスカにも言うからな!」

「良いよ別に」

「ったく……」


 イクスは困ったように頭を掻いた。


「……あ、忘れてた! クイナが呼んでたぞ!! 後で部屋に来いってさ!」

「はいはい」


 自室に戻るセイヤの背を見送りながらイクスはため息を吐き、やれやれといった様子で首を振った。

 

 ――その様子を、浅葱色の髪の細身の男性が見ていた。

 呆れ果てるイクスに近寄っていき、滑らかな声で話し掛ける。

 

「イクス。何かあったのか?」

「あー、ラムダ……セイヤがなぁ」

「あぁ、またやったのか」


 ラムダと呼ばれた男性は、その水色の瞳を細めながら苦笑した。

 

「悪いヤツじゃないんだがなー! どうも呪化の事になるとさー!」

「分かるよ。まあ、仕方無いだろう。立ち直ったとは言え、心の傷はそうそう消えるものじゃあないからね」

「……まぁなぁ」

「それよりも、どうやったらもっと“白い羽根(あれ)”が危険なものと認知させられるかも重要だと私は思うよ。これだけ周知させようとしても、全く浸透していないように感じるんだ」

「確かになあ……看板でも立ててみるか!?」

「はは、それ結構アリかもね。後、願いを叶えてくれるなんて根も葉もない噂もどこから流れ出してるやら……まぁ、それ程『願い』って言うのは魅力的なものなんだろうね」


 こうしている今も、嘘に惑わされ、罪の無い人々が命を落としていく。

 それを憂うかのように、ラムダは水色の瞳を伏せた。





 セイヤは自室で制服を脱ぎながら、イラつきを隠せない様子でいた。

 ふと、彼のルナガル(ファースト社専用スマートフォン)の通知音が鳴る。

 画面を見ると、今日も他の地区で呪化が発生した事を知らせる通知が来ていた。

 

「……俺達は何度も言ってるのに」


 読み進めていくと、怪我人が発生した旨が記されており、セイヤは眉をひそめる。


「命よりも、自分の願いが叶う方が大事なのか? 叶うはずが無いのに、死ぬって言ってるのに。どうしてみんな分かってくれないんだ」

 

 ルナガルをデスクの上に置くと、制服をハンガーにかけ、ベッドの上に乱暴に体を投げ出して横になる。

 ため息を付きながら仰向けになり、天井を仰いだ。


「……大切な人がいなくなってからじゃ、遅いんだよ……」


 少しの間、小さく鼻を啜る音が、部屋に響いた。



 

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