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15話 それぞれ。



 始まりはいつも、いちばん重傷だった腕の付け根。

 鈍痛から始まったかと思うと、その痛みは急に膨れ上がり、その後に続いて他の古傷が一斉にズキズキと痛み出す。


 鼓動に合わせて暴れ回る痛みに、ナスカはたまらずにベッドから起き上がり、悲鳴を上げる自身の体をさすった。


「ナスカ? 痛むのか?」


 カーテン越しにセイヤが話しかけてくる。


「セイヤさん、ごめんなさい、起こしてしまいましたね~……」

「良いんだよ。痛いんだよね? 待ってて、薬持ってくるから」

「ありがとう、ございます……」


 静かにドアを開け、セイヤが部屋を出て行く。

 その間も、体の様々な部分がズキズキと痛んでいた。


 それはとっくに治った筈の傷だったが、時折こうして痛むのだ。


「……まだまだ、私はお役に立てそうには無いですね……」


 自身の身体をさすりながら、ナスカは呟いた。

 



 

 シウが社員寮に来てから少し経ち、彼女も新しい生活に徐々に慣れてきていた。


 今日は、社員寮の業務を担当してくれているナスカが休みの為、待機しているディオとシウの二人が代わりに行っている。

 爽やかな晴れ空の下で、二人は洗濯物を干していた。


「ここにも、大分慣れてきたか?」

「うん。みんな優しいね」

「そうだな」


 ディオはシーツの皺をのばし、物干し竿にかけた。そこにシウがいくつかの洗濯ばさみを手渡すと、彼は手際よくシーツを止めていく。

 

「でも、たまーにだけど、セイヤ。なんだかちょっと怖い時があるよね」

「ああ。あいつは少し事情があってな」

「事情?」


 そこでディオは、「言ってもいいものか……」と小さく呟いた。


「……お前がセイヤを怖く感じると言う時は、大抵アイツが呪化(ジュカ)の話をする時だろう?」

「あ、うん」

「あいつは、一番最初に呪化が出現した町の生き残りでな。その時に、家族を全員……殺されてるんだ」

「えっ? 全、員?」


 少し動揺を見せるシウに、ディオは頷く。


「それ故に、人一倍呪化を憎んでいる。“白い羽根”を使おうとする人間も、きっと彼にとっては同等なのだろう」

「そうなんだ……それであの時も……」

「まあ、イクス曰く、前はもっと荒れていたらしいがな」

 

 冷たい風に吹かれ、綺麗に干されたシーツが揺れる。

 色の薄い青空が、寒さはまだまだ続くことを物語っていた。


「なんで、みんな羽根を欲しがるのかな。結局、願いが叶うことはないんでしょ? それに、使ったら死んじゃうって言われてるのに。なんでそこまで……」

「人によって様々だろうな。呪化する事を嘘だと思っていたり、その事を踏まえた上での宝くじ感覚だったりしたか。それとも、そんな物にも縋りたくなる程の、どうしても叶えたい願いがあったのか」


「お前にも、覚えはあるだろう」 

「……うん」


 その時、ひときわ強い風が吹いた。


 風は木々を揺らし、洗濯物を激しくはためかせる。

 冷たい風に凍えたのか、シウが小さくくしゃみをした。


「中に戻るか」

「ん、そだね」


 空になった洗濯かごを抱え、二人は社員寮の中へと戻っていく。


「そういや、ナスカちゃんがお休みってコトは……ご飯の担当もあたし達?」

「そうなるな」

「むむ」


 シウの眉間に皺が寄っていく。


「どうした?」

「あたし、あんまり料理したコトなくて……その、みんなにあたしの料理を出すのは、ちょっと、はずかしいというか……」

「案ずるな。その為のアテンダントだ」

「……! ディオ、料理出来るの!?」

「ああ。流石に、ナスカ程では無いが」

「わあ! じゃあお願い!」

「分かった。だが、作る時はお前も一緒にな」

「えっ」


 

 ――その日の夕食には挽き肉がごろごろと入った贅沢なミートソースのパスタと、程よく煮込まれた野菜がたっぷりと入ったコンソメスープ。

 

 それと、野菜が不揃いの、少し不格好なサラダが並んだ。


「まさか、包丁を持った事が無かったとは……」

「たいへん、めんぼくない、です……」

「またリベンジするぞ。1から教えてやる」

「……ハイ」


 シウは恥ずかしそうに目を伏せながらも、自らが生み出した端が繋がったままのキュウリを口に運んだ。



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