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13話 “白い羽根” Part.1



 少女は、聞き慣れないアラームの音で目を覚ます。 

 寝ぼけたままの頭で音の出所を探すと、それは見覚えのない白いスマートフォンだった。


「……?」

  

 少女が体を起こすと、茶色い髪についた寝癖がぴょこっと跳ねた。

 半分閉じたままの緋色の瞳で、辺りを見回した。

 

 自分の部屋のものでは無い良い香りがするシーツと、ふかふかの枕。部屋の中心を区切るように引かれた、厚手の大きなカーテン。

 そして、遠くに海が見える窓。

 

 ――全く見覚えのない部屋の風景。

 

 一瞬、頭の中が疑問符でいっぱいになるが、次第にその頭が覚醒してくる。


「……あ……そっかあ……」


 ここは社員寮。

 ファースト社対策部、A班の社員寮だ。


 シウは、正式なエクスナーとして初めての朝を迎えたのだった。





「ディオ、どうかな?」


 パリッとした真新しい黒い制服を着込んだシウが、自分の姿を確認しながらも言う。

 

 ファースト社は元々警備会社だったらしく、今皆が着ている制服も、警備会社時代の時のデザインをある程度引き継いでいるらしい。

 上着はワイシャツ型で、首元は詰襟となっており、肩にはファースト社のエンブレムが付けられている。

 下は同じ黒のスラックスで、太めのベルトで締められていた。


「……大丈夫だ」

 

 黒髪と褐色の肌を持つ男――ディオが、青い瞳でシウを見下ろしながら答えた。


「ほんと?」

「ああ」


 シウの両手には、手の甲から前腕の途中までを覆うように黒いプロテクターが着けられており、脚の付け根には、持ち手の白いナイフが入ったホルダーが提げられている。

 そして、左の上腕付近には、エクスナーの証である白い腕章が。


 対してディオの方はプロテクターや腕章が無く、代わりに肘までを覆うように、あの物々しい金属製のガントレットが手に着けられていた。

 彼は鈍色に光るそれを隠すように、上からジャケットを羽織った。

 

「よし、後はリビング行けばいいんだよね」

「待て」


 ディオがシウの机の上から何かを手に取る。

 それは白いカバーのつけられたスマートフォンと、狼が象られた銀のバッジだった。


「あっ、忘れてた!」

スマホ(これ)は上着の内ポケットに入れておけ」

「分かった!」

「バッジは付けてやる。上を向け」


 言われるままにシウが上を向き、首元を露わにすると、ディオが制服の襟にバッジを取り付けた。

 彼女の首元で、傷1つ無い銀色のバッジが煌めく。


「ありがと」


 お礼を言うシウに対して、ディオは頷いた。


 二人でリビングに降りていくと、同じ制服を着て白い腕章を着けた茶髪の青年――セイヤが、ホワイトボードに各々の予定を書き込んでいる所だった。

 そのホワイトボードには六人分の名前が載っており、最後にシウの名も連ねられている。


「あ、2人とも! 準備出来た?」

「あ、はっ、はい!」

「おっけー! ちょっと待ってね」


 セイヤは自分の欄、そしてシウとディオの欄に『見回り』と書き込んでいく。


「――よし、と。お待たせ! じゃあ、今日は三人で見回りに行こう! 本来は二人一組で行動するんだけど、しばらくの間は俺がサポートにつくよ」

「わっ、わかりました」


 シウが、緊張した様子で返事をする。

 そうして、出発する前の簡単なミーティングをする三人の横を、洗面所から出て来たらしいイクスが通りかかった。

 タオルを首にかけ、一つ結びにした銀髪を揺らしながら、にこにこと近寄ってきて話しかけてくる。


「おっはよーさーん! シウちゃん初勤務?」

「そ、そうなんです」

「ナハハ、ガッチガチだなー! 怪我しないよう気をつけろよ~?」

「う、気をつけ、ます……」


 イクスは「頑張ってな~!」と言いながら二階に上がっていく。


「イクス、さん、は、今日はお休み?」

「いいや。キリとイクスの二人は、今日は社員寮に残って貰うんだ。何かあった時の為の待機要員って感じだね」

「なるほど……」

「んじゃー、早速行こっか! ディオ、運転お願いしてもいいかな?」

「ああ」

 

 ディオは返事をすると、リビングのドア付近に下げられていたキーを1つ手に取った。


「よし……ナスカー! 行ってくるね!」

「はぁい、いってらっしゃいませ! お気をつけて~!」


 ナスカの声に送られながら、三人で玄関を出て行く。

 扉を出る時、シウは立ち止まって後ろを振り返り、遠慮がちに「いってきます」と呟いた。

 




「着いたよ」


 車を降り、それぞれの上着を羽織った。

 ディオがシウに、上着の上からあの白い腕章を着けるよう促すと、彼女は慌ててそれを装着をする。

 

「俺達、“対策部(たいさくぶ)”の仕事は呪化(ジュカ)が発生した際の討伐が主だけど、それ以外の日には担当地区の見回りをするんだ」


 そう言いながら、セイヤは白いスマートフォンを取り出して操作をし始めた。


「シウの"ルナガル"も出して貰っていいかな?」

「あっ、はい!」


 シウが懐から、セイヤのものと同じ白いスマートフォンを取り出した。


「その、地図のマークのアプリを開いてもらって……うん、そうそれ」


 二人のルナガルの画面に、同じ地図が映し出される。

 その地図は区画ごとに色分けされていたり、様々な色の点が忙しなく動き回っていたりした。

 

「この赤い点が俺達。俺達だけじゃなくて、A班の人はみんな赤で表示されるようになってるんだ」

「ほえ……」

 

 セイヤがルナガルの画面上の地図を指さし、「今日はこの辺りを回ろう」と言うと、そのまま指でなぞる。

 すると、範囲が選択され、それがそのまま地図上に反映されていった。

 

「よし、と。えーと……まず、見回りの目的は、いち早く呪化を発見する事と、後は“白い羽根”の回収をする事かな」

「しろいはね、って、確かそれを使うと呪化しちゃうやつ?」

「そう。一応、拾った人は提出が義務付けられているんだけど、それでも勝手に使っちゃう人が後を絶たないんだ」

「それってもしかして、『願いが叶う』って噂のせいで……?」

「そうだね。だからそうなる前に、俺達が回収しなきゃならないんだ」


 セイヤがルナガルを懐にしまう。


「……あんな羽根1つで、願いなんて叶う訳が無いのにね」


 俯き、吐き捨てるように言い放つセイヤの横顔は、一瞬冷たい表情を浮かべる。

 しかし、彼はすぐに元の柔らかな雰囲気を纏うと、口元に笑みを浮かべながらシウに向き直る。


「さ、行こっか! 歩きながらだいたいのルートを教えるよ」

「う、うん、よろしくおねがいします」


 意気揚々と歩き出すセイヤに、先ほどの冷たさの影は微塵も感じられない。


「(気のせいだったのかな……?)」


 シウは少し戸惑いながらも、ディオと共にセイヤの後を追った。


 

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