10話 陽だまりのふたり セイヤ
案内されたのは、丘の上にぽつんとある家だった。
大きめの普通の家と言った風貌で、ガレージと少し広めの庭があり、そのガレージ内には車が一台と、バイクが二台停めてある。
普通の家と違うのは、敷地への入り口に『関係者以外立ち入り禁止』という看板が掲げられている所だろうか。
「着いたぞ」
背の高い黒髪の男――ディオが、助手席のドアを開けながら声をかけると、茶髪の少女――シウがドアの陰から顔を覗かせる。
まるで猫のように緋色の瞳をきょろきょろとさせた後、そっと助手席から降りた。
「ここが社員寮? なんだか、普通のおうちみたい」
「まあ、造りはそうだな」
シウは車からベージュ色のダッフルコートを取り出して羽織ると、玄関から反対側の方へと歩いていく。
先程まで車内から眺めていた海が遠くに広がっており、ほのかな潮の匂いを乗せた風が、彼女の茶色い髪を舞い上げる。
「先に行け。後から向かう」
「えっ……一人で?」
「大丈夫だ、悪い奴はいない」
ディオはそう言うと車のトランクを開き、荷物の整理をし始めてしまう。
シウはそんなディオの背をちらちらと見ながら、恐る恐るといった足取りで玄関へと向かった。
そして、インターホンに指を伸ばし……かけたが手を引っ込め、また伸ばし……。
そうして何度か迷った後に、ついにぐっと力を入れてボタンを押した。
チャイム音が鳴り響き、少ししてばたばたと誰かの足音が聞こえ、がちゃりと扉が開く。
「はーい?」
出てきたのは、茶色いふんわりとしたショートヘアの青年だった。
白いシャツの上に暖かそうなオリーブ色のカーディガンを羽織った彼は、少女より少し年上のようで、見るからに人が良さそうな雰囲気を纏っている。
丸い翡翠色の瞳が、興味深そうに少女を見つめた。
「あっ、えと、あの、えーと」
「あ、もしかして、新しく配属された人?」
「そそそ、そうです……あのっ」
シウは一度、自分の胸に手を置き、深く息を吸い込んだ。
「えっと、対策部、新人エクスナーの、シウです。えっと……本部の研修を終え、今日から、A班に配属されてきました!」
辿々しくも必死にシウが告げると、青年はその瞳を輝かせ眩しい笑顔を見せた。
「待ってたよ! ようこそ対策部A班へ! 俺はセイヤ。ここのリーダーやってるんだ。俺もシウと同じエクスナーだよ」
「よろしくね」と差し出された手をシウが遠慮がちに握り返すと、セイヤは翡翠色の目を細めながらにっこりと微笑んだ。
「寒かっただろ? とりあえず中入りなよ。あ、甘い物は好き?」
「う、あ、はい、好き、です」
「良かった! 今クッキーを作ってもらってたんだ。丁度おやつの時間だし、それでも食べながら色々お話しよっか」
「クッキー……!?」
「うん。俺のパートナーが料理が得意でさ、新しい人が来るって知ったら張り切っちゃって。丁度焼き立てが食べられると思うよ」
「わあ……! あっ、で、でも、今、仕事中……」
「寮にいる間は関係無いよ。それに、ここが今日から家になるようなもんだしね!」
「そうだ。寮では、心身を休ませる事が第一だからな」
「うん、そうそう……ん?」
いつの間にか、シウの背後にディオが立っていた。
荷物を抱えたまま、青い瞳でセイヤを見下ろしている。
「あれ、ディオ! おかえり!」
「ただいま。しばらく空けてしまってすまなかったな」
「気にしないで! ……あれ、って事はもしかして……?」
セイヤがシウとディオを交互にみる。
「今日からシウのパートナーだ。そして、A班に正式に配属された。改めて宜しく頼む」
「それは心強いや! よろしくね、ディオ」
「正式に?」
「ああ。元から、俺はここの補助要員だったんだ。A班は人数が少なかったからな」
「ホント助かるよ。それじゃあ、ひとまず中に案内するね」
セイヤの後に続き、二人は中へと入っていった。