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エルタニア大陸物語  作者: 岸本ひろあき
エジオム王国編~ピンクブロンド嬢、死ぬ程がんばるっ!
20/22

第九話


 お父様が、辺境伯家の護衛30名と高等事務官2名と共に、王都の高等仲裁所に出向かれました。


 その護衛にはアーロン様も選ばれていました。アーロン様は出立の前日にお会いするとおもむろに強く抱きしめ、そしてプロポーズをしてくれました。


『何があろうとディオード殿は守る。そして無事に帰ってくるから安心して。あとこれだけ想定外の揉め事が起こっているんだ。帰ったら、もう、結婚しよう。王国中に僕たちの間には付け入る隙は無いのだと知らしめよう』


 わたしは食い気味で了承しました。

 そして初めて、アーロン様と口付けを交わしたのです。


 そして後ろ髪を引かれながら、アーロン様とお父様は旅立ちました。




 そして3日目の早朝。




 命からがら逃げ延びた年若い竜騎兵様が、全身を血まみれにしながら報告しました。

「何の宣戦布告もなく、王国騎士団から不意打ちを受けました――!!」




 この日から、絶望に染まった、地獄の日々が始まりました――




 ◇ ◆ ◇




「ゼティス陛下」


 執務室で業務に取り組んでいると声が掛けられた。

 そこには腹心にして同好の志、筆頭諜報員のバオルが立っていた。


「何だ」

「男爵と護衛らが辺境伯領を出ました。速度も順調、王都には5日程で到着しますよ」

「そうか。ではこちらも予定通り動くとするか」


 俺はそう言うと宰相と王国騎士団団長と軍務大臣を招集した。

 3名は押っ取り刀で執務室に駆け付け、静かに屹立した。


「事前に申していた通りだ。ギャラッグ辺境伯家が謀反の兆しあり。騎士20名、竜騎兵10名を引き連れて王都に迫ってきている。中には今回の謀反の首謀者であるダーナン・ギャラッグの長子アーロンとその腹心ディオード・ロクラントがいる。これを生かして捕らえよ。それ以外は生死不問とする」


 騎士団長は何があっても俺に忠誠を誓う男だ。

 俺の言葉に何も疑問を挟まなかった。

 だが軍務大臣は言いようのない困惑の感情を、宰相ははっきりと反感を抱いたようだ。

 宰相が常のしかめっ面を更に歪め口を開いた。


「……陛下。これは少々――いえ正直に申しましょう。これは余りにも無理筋では? 陛下のその顔付きからして腹の内は話す気はないようです。ならば問いませぬが、これによって国内は取り返しが付かない程に荒れますぞ。そこまでして母上が憎い・・・・・ので?」


 軍務大臣はそれを聞いて冷や汗をかいているようだ。

 その様を見て鼻を鳴らし、言った。


「憎い? いいや。もうあれに対する憎しみはないな」

「であれば、何故」

「辺境伯家を潰す理由は、国家転覆罪だ。あ奴らは戦姫の存在を王家に知らせる前に、懐に入れおった。南の大森林を超えた先にあるアルロアナ大公国の例を忘れたか? これは立派な王国に対する挑戦よ」


 アルロアナ大公国はかつて50年程前に勇者と戦乙女が夫婦となり興った国で、現在では衰退したラクスアン王国を取り込みつつある大国だ。


 宰相は暫しの沈黙の後、深くため息を付いた。


「か細くはありますが……大義名分が立たない訳では、ありませんな。ですが――深刻な禍根が残りますぞ。どうなされるつもりか」

「関係ない。根切りだ」


 俺の即答に、騎士団長ですら息を飲んだ。

 宰相は眉間に深い皺を立てた。


「辺境伯家の家門を潰すだけでなく、族滅させるおつもりか。ですが場所は辺境。残党の逃げ場など無限にあります。どうやって――」

「私は祝福を賜っている。その力は千里眼。神気が続く限り、私の目からは逃れられん。残党がゲリラ化しようが領民がパルチザンとなろうが問題ない。それをもって根絶やしとする」


 今度こそ、宰相は反論することを止めた。


「左様ですか。ならば陛下のお心のままに成されよ。それで、戦姫様はどうなされるか」

「ああ、あれは私の寵姫とする」


 軍務大臣は唸り、宰相は隠すこともなく侮蔑の顔付きになった。


「何故、わざわざそのような。お子を作らない気ですか」


 寵姫とはまさに王が愛でる為だけ・・に迎え入れる女性を差す。

 王妃、側妃、寵姫の順に格付けされていて、側妃までは子は王族として認められるが、寵姫の子は王族どころか貴族とすら認知されず庶子となる。

 その為、迎え入れた寵姫の大抵が避妊処理をされ、子を成すことはない。


「いいや? 子は作るぞ。せっかくの戦姫だ。生まれた子は優秀な可能性が高い」


 俺の言う通り、神から戦姫にまで選ばれる女性が産む子は大概が優秀で、作らないのはもったいないというものだ。


「……生まれくる子は、庶子ですぞ」

「ああ、そうだな。だから暗部に引き渡す。優秀な諜報員となろう」


 軍務大臣も宰相も絶句した。

 まあ、そうだろうなと俺は得心した。

 代々の王に継承される諜報機関である、暗部。

 暗部は決して表舞台には出ることはなく、裏で生き死んでいく。

 その性質上、人員は孤児出身か曰く付きの人物か、中には犯罪者もいる。


 宰相は侮蔑すら生温い、心地よい・・・・殺気をぶつけてきた。


「神罰をお望みか」


 その言葉に、騎士団長が帯剣を抜こうとしたが、俺は目線で止めた。


「そうか? 俺なりに・・・・戦姫を愛そうと思っただけだ。それに影として結果を出すなら、騎士爵くらいはくれてやろう」


 騎士爵は一代限りの称号だ。

 庶民であれば手放しで喜ぼうが……誉れある戦姫を孕ませた王が、その子を暗部に落とし、大した将来も与えない――

 その所業を前に、宰相はついに吐き捨てるように言葉を発した。


「……――左様で。事ここに至り、私には陛下を止める力も言葉もない。国を立て直す為にと思い陛下に権力を集中させましたが、これは完全な私の失策です。これを見抜けぬとは、まったく、私は無駄によわいを重ねただけの役立たずのゴミクズだ。故にこの神をも憐れむ謀略を見届けた後はお暇を頂く。宜しいですな」


 軍務大臣も大量の汗をかきながら口を開いた。


「……恐れながら私めも、一区切りがつけばお暇を頂きます。後任は陛下のお気に入りをお選び下さい」


「そうか。あい分かった。話は以上だ、おって指示を出す故もう下がっていいぞ」


 騎士団長は一礼して、2人は頭を下げることなく退出していった。




 それを物陰で見ていた影のバオルが声を掛けてきた。


「あれ? 陛下、戦姫殿を娶る気に? 当初の計画では侯爵の息子を宛がう予定だったのでは?」

「ああ、それなあ。その計画だと最初は地獄に苦しむのだが、結局最後は、何だかんだ・・・・・・戦姫は幸せ・・・・・になると・・・・分かってな・・・・・。しかも苦悶の表情をその場で見られんのは、やはりつまらん。そこで変更して、俺の寵姫にすることにしたのだが――こちらは凄いぞ! 一族郎党が死に絶え、無理やりに抱かれ、正妃と側妃から虐げられる日々、しかも子まで取り上げられて――それでもあの娘は壊れない・・・・のだ。とても素晴らしい・・・・・日々だ!」


「なるほど。得心です」


 バオルは心底楽しそうに破顔した。

 それを見て、俺も心底楽しそうに口角を上げる。


「まったく、最初からこうしていれば良かったのだ。無駄打ち・・・・をしたが、まぁこれも人生、よかろうて。さあ――あの娘の絶望さいこうの顔を見るとしよう」


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